ベネチア国際映画祭報告2008

7.「幽霊」たちのパワー

2008/9/5

 今年はマテオ・ガローネの「ゴモラ」とパオロ・ソレンティーノの「神」の2本がカンヌ映画祭で受賞してイタリア映画の好調ぶりがうかがえました。マルコ・ミュラーにインタビューしたときも、「今年は特に強い年だ」と胸を張っていましたが、旧知のイタリア人評論家に聞くと、「カンヌが頂点だったね。その後、いい噂は全然聞かないよ」。  主催国のイタリアは、今年はフェルザン・オズペテクの「完璧な一日」、プピ・アヴァティの「ジョヴァンナの父」、パッピ・コルシカートの「不和の種」の3本、それにチリ出身のマルコ・ベキスがブラジルの森林開発と先住民の苦悩を描いた「バードウォッチャーズ」の製作会社がイタリアなので、合計4本をコンペに出品していますが、ベキスの作品を別として、どれも映画作りは手馴れているものの、もう1つ、心に響くものに欠けるような気がしました。

 今年は“この幽霊たち”という特集が組まれ、長い間倉庫の中で眠っていた40年代から70年代にかけてのイタリア映画の忘れられた作品が発掘され、修復された上で上映されました。私が見たのは、フェデリコ・フェリーニの監督第一作で、ニーノ・ロータと初めて組んだ「白い酋長」(フェリーニは、この前に共同監督として「寄席の脚光」を撮っています)、フェリーニが脚本に協力したマリオ・ボナールの「苦悩の街」、私にネオリアリスモ以外のイタリア映画のハチャメチャな面白さを教えてくれたディーノ・リージのコメディ「怪物たち」など。出来はさまざまですが、どの映画も不思議なパワーに満ちていて、これは日本映画にも言えることなのですが、いつから映画はこのパワーを失ってしまったのか、考えさせられました。

 写真はお馴染み、チケットを買って映画を見た観客が不満をぶつける掲示板「金返せ」コーナー。昨年は、任期の切れるマルコ・ミュラーに替わって誰がディレクターになって欲しいかの投票が行われていましたが、今年のテーマは「ローマ映画祭はヴェネチア映画祭より上か」。ここでの投票では「いいえ」が51.3%、「はい」が24.7%で、倍以上の観客がヴェネチアの方に軍配をあげていました。

筆者紹介

齋藤敦子さん  映画評論家。パリで映画編集を学んだ。フランス映画社宣伝部から90年にフリーとなる。G・ノエ、グリーナウェイの諸作品を字幕翻訳。  最新作は「麦の穂をゆらす風」。「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。