カンヌ国際映画祭報告2007

2.映画祭の世代交代

2007/5/20

 今年の審査員の顔ぶれを紹介しておきましょう。審査員長は、「クィーン」で、巧みな演出とはこういうもの、というお手本を示した英国のスティーヴン・フリアーズ監督。以下、審査員は「夜よ、こんにちは」がヴェネチア映画祭で金獅子賞を獲らなかったことが物議をかもしたイタリアのマルコ・ベロッキオ監督、最新作「バマコ」が世界的にヒットしたマリのアブデラマン・シサコ監督、フランスの大ベテラン俳優ミッシェル・ピコリ、それにトニ・コレット、サラ・ポーリー、 マギー・チャン、マリア・デ・メデロスの女優陣と、昨年のノーベル文学賞受賞者のトルコのオルハン・パムクの9人です。

 映画祭が始まってみて、昨年との大きな違いに気がつきました。それは会場の椅子が変わったことです。「なんだ、そんなこと」と思うかもしれませんが、実は主会場が今の建物に移ってから、この椅子がとても悪名高い存在でした。というのも、立ち上がったときにバタンと大きな音がするからです。普通なら気にならないほどの音ですが、これが上映中だと、ひどく大きく聞こえるのです。何事も忙しいカンヌ、映画がつまらないと上映の途中で人がどんどん出て行って、バタンバタンという音の狂想曲になり、会場内で反応をうかがっていた映画の監督や関係者の肝を冷やす、というわけでした。それでも、私が初めてカンヌにきた四半世紀前と比べて、好き嫌いの激しいカンヌのプレスも、少しずつ世代交代があって、今では随分大人しくなったような気がします。昔は観客からの好悪の表現が非常に大きく、途中で出て行く人もブーイングする人もずっと多かったのですが、今は、あれっと思うような映画でも、最後まで大人しく見ている人が増えたように思えるのです。それは観客が成長したから、ではなく、むしろ映画に対する熱意が減っているためだとしたら、椅子を変えることではすまない変化が起こっているといえるのかもしれません。

 写真上は記者会見の模様で、左からアブデラマン・シサコ、サラ・ポーリー、オルハン・パムク、マギー・チャン、スティーヴン・フリアーズ。

 写真下は、ある視点部門のオープニングの模様で、「赤い風船の旅」の上映後に観客から拍手を受ける侯孝賢と主演のジュリエット・ビノシュです。

筆者紹介

齋藤敦子さん 映画評論家。パリで映画編集を学んだ。フランス映画社宣伝部から90年にフリーとなる。G・ノエ、グリーナウェイの諸作品を字幕翻訳。最新作は「麦の穂をゆらす風」。「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)などの翻訳書も。