カンヌ国際映画祭報告2007

5.根強い北野監督人気

2007/5/23
 映画祭も折り返し地点を過ぎ、残すところはあと3日。これまでのところ、全体的に評判がいい作品は、ルーマニアのクリスチャン・ムンギウの「4か月、3週間と2日」、コーエン兄弟の「ノー・カントリー・フォー・オールド・メン」、デヴィッド・フィンチャーの「ゾディアック」、ジュリアン・シュナーベルの「潜水服は蝶の夢を見る」といったところでしょうか。フランス期待の新鋭、クリストフ・オノレの「シャンソン・ダムール」は、フランスの批評家にはとても評判がいいのですが、英語圏の批評家には、いまいち芳しくありません。フランス語圏と英語圏の批評家の評価に微妙な温度差があるのが面白いところです。

 「4か月、3週間と2日」は、チャウシェスク政権末期のルーマニアで、妊娠したルームメイトを中絶させるために、あらゆる犠牲を払う、献身的な娘と、彼女を取り巻く自己中心的な世界を淡々と描いた作品。「4か月、3週間と2日」とは、妊娠月のこと。中絶が難しい時期になっていたために、娘は思わぬ犠牲を払うはめになります。コーエン兄弟の「ノー・カントリー・フォー・オールド・メン」はテキサス州のメキシコ国境の町が舞台で、麻薬取引に絡んだ殺戮事件直後に遭遇し、大金を持ち逃げしたハンターと、彼を追う殺し屋、事件を担当する引退直前の老保安官を描いた、いわば西部劇版「ファーゴ」。おかっぱ頭の不気味な殺し屋をハビエル・バルデムが、保安官をトミー・リー・ジョーンズが演じています。

 写真(上)は、20日に行われた映画祭60周年記念作品「それぞれの映画館」の記者会見の模様。最前列に座った紅一点のジェーン・カンピオン監督が北野武監督の記念写真を撮っているところ。真ん中の列には、左からクロード・ルルーシュ監督、ラウール・ルイス監督、アモス・ギタイ監督、最後列でマイクを持っているのが侯孝賢監督です。そういえば、北野監督の「HANA−BI」がヴェネチア映画祭金獅子賞を獲ったときの審査員長がジェーン・カンピオン監督でした。写真(下)は「ノー・カントリー・フォー・オールド・メン」の1シーンです。

 「それぞれの映画館」は、映画館をテーマに、世界の監督35人が作った(コーエン兄弟とダルデンヌ兄弟は1組なので)33本の短編集。持ち時間は1作3分と短いのですが、監督それぞれの個性が出た、面白いアンソロジーになっていました。我らが北野監督の作品は、野原の真ん中にぽつんとある古い映画館に映画を見に来た男(モロ師岡)が、不器用な映写技師(ビートたけし)のおかげで映画を満足に見られない、というコメディ。男が「農業一枚」と言って切符を買うベタなギャグにも笑いが起こり、北野武監督の根強い人気を思わせました。

筆者紹介

齋藤敦子さん 映画評論家。パリで映画編集を学んだ。フランス映画社宣伝部から90年にフリーとなる。G・ノエ、グリーナウェイの諸作品を字幕翻訳。最新作は「麦の穂をゆらす風」。「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)などの翻訳書も。