カンヌ国際映画祭報告2007

6.暗い時代を生きる少女

2007/5/26

 トルコの首都アンカラで爆弾テロがあった翌日、トルコ出身のファティ・アキン監督の「向こう側から」が上映されました。発端はブレーメンに住む老トルコ人がハンブルグの街である娼婦を出会うこと。彼女がトルコ人と知って、家に連れ帰るのですが、ちょっとした諍いで、誤って彼女を殺してしまいます。老人が男手ひとつで育てた息子は、娼婦に親近感を感じ、彼女が会いたがっていた娘を探しにイスタンブールに出かけていきます。しかし、娼婦の娘は過激派グループに身を投じ、イスタンブールで事件を起こしてドイツへ逃亡。大学に潜伏しているときに、ある女子大生と出会い、彼女の実家にかくまわれます。こうして、トルコ人親子とドイツ人親子6人の運命が、目に見えない糸で結ばれていく、という物語です。

 アキン監督はドイツに住むトルコ人。映画のテーマは異なる民族、異なる世代の和解の可能性を探ること。彼が映画で示しているのは、“相手を知り、受け入れること”という方法のように思われました。EU加盟を前に、クルドの独立問題など、国内での混乱状態が続いているトルコ。“相手を知り、受け入れること”は、同じ民族の中でも通用する普遍の真理のように思えます。

 もう1本、コンペで面白い映画を見ました。マルジャン・サトラピとヴァンサン・パロノーの「ペルセポリス」です。「ペルセポリス」とは古代ペルシャの首都のことで、日本でも出版されたサトラピの自伝的コミックのアニメ版の題名でもあります。イランの王族の血をひき、左翼思想を持つ家庭に生まれた反骨精神旺盛な少女マルジが、イスラム革命、対イラク戦争という暗い時代を等身大で生きていく姿を描いています。実はイラン政府がこの映画を、イランの政治体制への攻撃であるとして上映に待ったをかけようとしたのですが、フランス政府は、カンヌのセレクションは“芸術上の決定である”としてとりあいませんでした。過去、政治の影響で大きく揺れることがなかったわけではないカンヌですが、今回は表現の自由の場としての映画祭の立場は守られたようです。

 写真上は、マジェスティック・ホテルのロビーで出会った賈樟柯監督(左端)。今年の短編コンペティションの審査委員長で、撮影中の新作が8月のヴェネチアに出品が決まったそうです。右隣が東京フィルメックスの市山尚三さん、一人おいて、賈監督の最新作「長江哀歌」でも主演している女優の趙濤さん。賈監督とは昨年のヴェネチア以来の再会でした。

 写真下は「ペルセポリス」の1シーンです。

筆者紹介

齋藤敦子さん 映画評論家。パリで映画編集を学んだ。フランス映画社宣伝部から90年にフリーとなる。G・ノエ、グリーナウェイの諸作品を字幕翻訳。最新作は「麦の穂をゆらす風」。「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)などの翻訳書も。