ナント3大陸映画祭報告2007

1.連呼、連呼に失笑 想田監督の「選挙」

2007/11/24

第29回のポスター

 11月21日深夜、成田を発って、今年も西フランスの古都ナントで開かれている3大陸映画祭(11月 20−27日)にやってきた。2年のブランクを挟んで13度目の訪問だ。

 アジア、アフリカ、中南米の「映画後進地(今やそんなことはないが)」にまで映画の地平線を広げようと始まり、3大陸に絞った作品だけを提供し続けるユニークな映画祭も、今年で29回となる。今年はコンペティション部門でフィクションとドキュメンタリーが統合され、大島渚監督の業績、パキスタンをめぐる視点、マリオ・ソフィック監督による1940年代を中心としたアルゼンチン映画、アクラム・ザアトリと仲間たちによるビジュアルとドキュメンタリーの作品などの特集が組まれ、盛りだくさんの内容だ。会期中、4つの映画館の7スクリーンで99本が上映される。

 成田から約19時間の旅。時差がマイナス8時間のためパリ着は22日早朝4時過ぎ。年金削減に反対した国営交通機関勤務者のストが1週間以上続いていて、新幹線(TGV)も間引き運転との情報に心配したが、6時半発のナント行き始発は無事運行。ナントには22日午前9時前に到着したので、映画は22日朝から見始めた。初日はメキシコと日本のコンペ2作品とアルゼンチン特集などの2作品を見た。

 コンペ部門のメキシコの「使用済み部品」(アーロン・ヘルナンデス監督)は、メキシコで叔父と一緒に暮らす14歳のイワンが主人公。2人は車の使用済み部品を扱って生計を立てているが、実は駐車中の車の部品を外したり、よそから回された盗品の車全体を分解するなどして売りさばていた。より裕福な生活、できればアメリカへの脱出を夢見る2人には違法行為も何のその。イワンは友達と一緒になって部品盗難を続けていたが、ある時、その途中で友達が事故に遭う。友達の治療費に充てようと、叔父と2人で貯めた金を持ち出したイワンだが、病院に駆け付けると既に友達は亡くなっていた。かつて2人で、アメリカへの夢を抱いて、歩いてみた鉄道線路を、イワンは1人で歩んでいく。

 叔父とともに違法なことが日常のイワンと、優しい母親がいながらイワンとの部品盗に痛快さを感じる友達。若さ特有の無鉄砲さと、そこでの友情は、いつまでも続かない。友人の死という代償を払ってイワンは新たに旅立つ。よくある設定でが、イワンと友達役のてらいのない演技が、見る者を引き付けた。この日は、高校生の映画鑑賞日に当たっていたこともあって、若い観客からのひと際大きい拍手が送られた。

カトロザの前で列をつくる観客

 日本の「選挙」(想田和弘監督)は、2004年の川崎市議補欠選挙のドキュメンタリー。東大卒ながら選挙の素人が、自民党公募の落下傘候補として地縁もない川崎で市議選に挑戦するさまをとらえたもの。告示前の「お願い」は、名前の連呼とお辞儀ばかり。組織票を頼っての団体回り、同時投票の参院選、市長選とのタッグの実態。候補者自身の「自分の器は東京の区議ぐらいと軽く思っていた」の本音とは別に、当選を目指して”選挙マシーン”の締め付けは、どんどん厳しくなっていく。それでも車の中で休憩をとるさまは、若さゆえのしたたかさなのか、自己防衛本能なのか。

 日本の選挙のいびつさは常々感じてはいたが、遠く離れた異文化の中で、より鮮明に思い知らされた。日本の選挙はまさにパロディーだ。ニューヨーク在住の想田監督は、上映前に流ちょうな英語で「日本の政治はこっけいな試練だ」と説明して笑いを誘っていたが、観賞後の観客の心に残ったものは、果たして何だったろうか。尋ねるのが怖いような気がする。

 冒頭から長時間映し出される名前の連呼には、政策で争わない日本の選挙にあきれたのか失笑が漏れた。出陣式の祭事や、当選を祝う万歳などは、他人任せの奇妙なパフォーマンスとして映ったようだ。上映後、女子高生の一部から「バンザーイ、バンザーイ」を面白そうに連呼する姿も見られた。

 アルゼンチンのマリオ・ソフィック監督の「10時のルサーラ」(1958年)は映画本来の楽しみを教えてくれた作品だった。ナントに到着して、何を最初に見るかで、その後の気持ちが随分違う。いい作品に出合うと、もっともっと見ようという気持ちになる。その意味では、初日の1作目がこれだったのは幸せだった。

 女性大家のアパートに長く暮らすカミロは実直だが風采(ふうさい)は上がらない。大家の娘の1人は密かに心寄せるが、彼に女性からの手紙が届くようになる。大家やアパートの住人たちがせんさくするうちに、彼女がルサーラといい、富豪の娘で、彼との交際を親に反対されていることが分かる。彼女と結婚させようと周りが盛り上がっている、その時間(午後10時)に、彼女がアパートを訪れる。2人は結婚するのだが、カミロが結婚式後、ホテルで彼女を殺したとして逮捕される。

 2人に何があったのか。実はルサーラは、カミロがアパートの人たちへのみえから勝手に創り上げた女性だった。ところがイメージ通りの女性が現れたことから混乱したのだ。関係者の証言は、まるで「藪の中」。最後にカミロの容疑は晴れ、ルサーラを演じることになってしまった女性の悲しい人生が浮かんでくる。

 陰影のある画面構成、何より展開の手際の良さに圧倒された。特にラスト、再度ルサーラが温かく迎えいれられるシーンが挿入されることで、幸薄い女性への思いが見る者にも伝わってきて、単なるミステリーに終わらせていない。ただ音楽だけは少し思わせ振り。この時代の産物だろか。

 最後に見たのは中国のジャー・ジャン・クーの「Dong」。映画祭が初めて、委員会を立ち上げて映画祭の方針に沿って製作を依頼した6本のうちの1本。ダム建設で水中に没する直前の三峡地区を巡り、そこに住む人たちを描き続ける画家の姿を追う。「珍奇な景色や設定でなく、人々の顔と体こそが、その地域そのもの」という画家の姿勢は、「長江哀歌」で三峡で土地を奪われた人を描いたジャー・ジャン・クー監督と重なるだけに、静かに迫ってくるものがあった。

* * *

 2年来ないと変わったものもある。ポスターは以前、どこかに3大陸の「3」にちなんだものがあしらわれていたが、今回は南米を思わす風景が主体で字体も丸くなって、大きく印象が変わった。コンペ部門がフィクションとドキュメンタリーが統合されたり、映画祭が作品依頼するなどの変化も反映したものなのだろうか。

 以前は混乱が続いていたコンピューターによる発券、順調に稼働していたと思ったら、2日目には半日、トラブルで発券不能になった。便利なものに慣れきっていると、必ずしっぺ返し遭うものだぐらいに構えてないと駄目なようだ。

 一番ビックリしたのは物価の上昇だ。3・5ユーロから5ユーロぐらいだった、フランスパンに野菜やハムを挟んだサンドイッチ、最低でも5・5ユーロになっていた。ランチのコースも10ユーロ以下はなくなった。ユーロは円に対して圧倒的に強く、3年前137円が今や170円。サンドイッチが1,000 円、ランチ2,500円にもなってしまう。ユーロが強いからといって、フランス人の給与が順調に伸びているということではないようだ。”張り子のユーロ” であってほしくないのだが…。

筆者紹介

桂 直之(かつら なおゆき) 北大卒。1972年、河北新報社入社。学芸部で映画評担当。山形総局長、編集局次長を経て2007年4月から三陸河北新報社常務。三大陸映画祭には1989年以来、13回訪問。NPO法人「シニアのための市民ネットワーク仙台」の会報にコラム「なんでもシネマ」を連載中。地域FMラジオ石巻で月2回「シネマ・パラダイス」を担当している。