ナント3大陸映画祭報告2007

4.証言が刺激的 「村人たちのラジオショー」

2007/11/28

休日とあってコンペ作品の上映会場はぎっしり(カトロザ2)

 ようやく晴れ間がのぞく。25日(日)はチュニジア、アルゼンチン、南アフリカ、マレーシアのコンペ部門4作品を見た。

 今回からコンペ部門はフィクションとドキュメンタリーが統合された。ドキュメンタリー的な手法が増え、フィクションとの境界が無くなってきたというのが理由のようだ。事実、この日の4作品を見ても、マレーシアの「村人たちのラジオショー」は純粋なドキュメンタリーだが、南アフリカの「Bunny Chow」は境界線上、チュニジアの「精神錯乱」はドキュメンタリータッチで、フィクションはアルゼンチンの「生存の可能性」だけといったあんばいだ。

 「村人たちのラジオショー」(アミル・ムハマド監督)はタイ南部のマレーシアと接したのどかな熱帯地方の村が舞台。村の子どもたちが登場し、自己紹介をしたり、授業の様子が映し出される。刺激的なのは断続的に挟まれるコミュニストの生き残り男性(87)の証言だ。日本の占領時代、英国支配の復活を潜り抜けて、マラヤ共産党の1員としてゲリラ戦も戦ってきた。そのため、マレーシアから追放され、タイ側のこの村に住んでいる。

 「日本が鉄道を建設し始めたので行こうとしたが、過酷な労働だという話を聞いてやめた。結局、日本の憲兵になった」。日本の東南アジア支配に触れる発言を、フランスで聞こうとは思わなかった。また「世界で一番威力のある武器はAK(カラシニコフ機関銃)だ」という証言も、”平和な日本”では耳にすることがないだろう。ムハマド監督は、「最後のコミュニスト」(2006年)で彼を取り上げたが、マレーシアでは上映禁止だという。

 「Bunny Chow」(ジョン・バッカー監督)のタイトルは、異なった少数民族や文化、言語、生活スタイルがない交ぜになったもので、南アフリカそのものを意味するという。3人のコメディアンらが、週末開かれる国内最大のロックフェスティバルに向かうロードムービー風展開の中で、それこそ南アフリカ的”ない交ぜ”の生きざまを見せつけていく。冒頭の彼らをめぐる女性関係では演技と分かる部分もあったが、後は本物のコメディアンたちだけに、どこまでが演技で、どこまでが地なのか判然としない。アップテンポの会話、演技のコミカルさに加えて、明るい音楽がいいスパイスになっていて楽しめた。

 ジャイビ・ファデル監督の「精神錯乱」は、現代の精神病治療が抱える問題点を鋭く突く。若いチュニジア人は精神科病院に送りこまれ、医師の独善的な治療を受けるが回復に向かわない。ただ精神分析学者の女性(監督夫人が演じ、脚本も共同執筆)だけが、彼の声を辛抱強く聞き続けようとする。我を忘れて叫び、家族さえも暴力で排除し、自らを傷つける。かと思うと自分1人の世界に閉じこもる。主人公の真に迫った演技がすさまじい。

 そして、コンクリートが打ちっ放しのビルを主な舞台に、色の対比を生かした抽象的な演出も、彼の孤立感を鮮明にして印象深かった。例えばこんなシーン。部屋がいっぱいになっても彼は折り紙の舟を作り続ける。どこかへ逃れたいが、その行き先は分からない。彼が希望を託したかのような舟を、病院は無情にもホースで流し去るのだ。

 サンドラ・ググリオッタ監督の「生存の可能性」はミステリアスな展開で、フィクションならでは楽しみを味わわせてくれた。突然失踪(しっそう)した夫を探して妻は1,000キロの長距離運転をする。たどり着いた所は、アルゼンチン・チリの南半分に広がる秘境パタゴニア。氷河を抱いた山と冷え冷えと広がる湖。一瞬、映画の展開など忘れて、見ほれてしまった。実はパタゴニアの景色を登場させると、製作者も観客も圧倒されて満足し、筋などどうでも良くなってしまうケースが多いそうで、それらを総称して”パタゴニアもの”と言うそうだ。でも、この作品は違う。陰影のあるカメラは出色だし、妻の悲しみをいやす別荘地のインテリアも暖かいものが周到に用意されていた。

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カキ以外の近海産貝なども盛り合わせたスィガルの前菜

 夜は、今がシーズンのカキを食べに、評論家の齋藤敦子さんらと100年以上続く「シィガル」に行った。前菜にカキだけでなく近海で捕れるハマグリやツブガイに似た貝類、伊勢エビを小さくしたラングティーン、カニを盛り合わせてもらった。クラッシュアイスの小山への盛り付けは、それだけで目が奪われ、目と口とで2度ごちそうを味わうことになる。合わせるのは地元産の辛口白ワイン、ミスカディ。これが相性が良く、食べては飲み、飲んでは食べてで、両方ともがあっという間に無くなってしまう。


100年を超すスィガルの歴史が、訪れた人たちの気持ちを華やかにする

 2年間の空白で、味が良くてよく通った料理店でも姿を消した所がある。スィガルは10時から深夜までの通し営業を続けていて、相変わらずの混雑だった。長い歴史と華やかな装飾に彩られながらも、格式張ったレストランとは違った気軽さが、この店の人気を支えているのだろう。フランスでデザートを断ると嫌がられる。日本でもよく食べるクリームブリュレを頼んだら、何と直径20センチ(さすがに厚みはなかった)のものが出てきてびっくりした。


筆者紹介

桂 直之(かつら なおゆき) 北大卒。1972年、河北新報社入社。学芸部で映画評担当。山形総局長、編集局次長を経て2007年4月から三陸河北新報社常務。三大陸映画祭には1989年以来、13回訪問。NPO法人「シニアのための市民ネットワーク仙台」の会報にコラム「なんでもシネマ」を連載中。地域FMラジオ石巻で月2回「シネマ・パラダイス」を担当している。