ナント3大陸映画祭報告2007

6完.熱気球賞に「罪と罰」

2007/12/03

受賞者、審査委員らが集合。右からグランプリ獲得のツァオ・リャン監督、映画祭ディレクターのアラン・ジャラドゥさん、準グランプリの「Bonny Chow」の出演者=シティ・コングレ

 早くも最終日になってしまった。
 ジュール・ベルヌにちなんだ金の熱気球賞(グランプリ)は、中国の「罪と罰」(ツァオ・リャン監督)が獲得、日本作品の「選挙」(想田和弘監督)は惜しくも賞を逸した。2003年から始まったドキュメンタリー部門は、今年からフィクション部門に統合された。統合初年のグランプリがドキュメンタリーの「罪と罰」だったことは、フィクションとドキュメンタリーの境界がなくなったことを証明した格好となった。

 閉会式は午後7時30分から、ロワール川の中州にある国際会議場、シティ・コングレで開かれ、トルコ映画「EGG」(セミフ・カプラノグル監督)を上映後、受賞作が次々と発表された。

 グランプリの「罪と罰」は、北朝鮮と中国の国境地帯にある駐在所の中国人警備員の日々を描いたドキュメンタリー。警備員自体の生活ぶりはもちろん、木材の違法伐採などの犯罪者へもカメラは冷徹に迫る。執ような取り調べでは、時には暴力も振るわれ、ここまで撮ってもいいものかと、思わせられるほど克明に映し出される。ドキュメンタリーといえども、客観的だけではありえない。監督が「じっとしていればいい、これも経験さ」という関係者のひと言を挟んだのは、改革の推進と抵抗で揺れ動く現代中国をあぶり出そうとしているからにほかならない。視点の確かさと、映像の迫力がグランプリを引き寄せたのだろう。

 日本からの唯一出展の「選挙」は、2004年秋の参院選と同時に行われた川崎市議補選で、政治素人の挑戦ぶりをとらえたドキュメンタリー。想田監督は、ブッシュ、ゴアが戦った大統領選での混乱で「選挙ってどうなっているの?」と関心を持ち始め、たまたま大学時代の友人(型破りで組織に属したことがない人物)が立候補したことから、「これだ!」と思ったという。政策よりも連呼、次に組織へのあいさつ、といった選挙の舞台裏が生々しくも、こっけいに描き出された。友人が被写体だけに”距離感”には神経を使い、ドキュメンタリーに付き物のインタビューやキャプション、音楽などを排して、素材だけで勝負した作品は、十分に日本批判になっていた。だが、候補者の立候補の真意だけは突っ込んで欲しかった。観客の反応も良かっただけに、賞を逃したのは残念だった。

 グランプリを除く各賞は以下の通り。

◇準グランプリ
「Bonny Chow」
(ジョン・バッカー監督=南アフリカ)
◇「新しい視点」賞
「精神錯乱」
(ジャイビ・ファデル監督=チュニジア)
◇最優秀女優賞
オ・ジョンヘ
(「千年鶴」イム・ギョンテク監督=韓国)
◇最優秀男優賞
「Bonny Chow」の俳優たち
◇ナント市民賞
「精神錯乱」
◇若い観客賞
「10話+4話」(マニア・アクバリ監督=イラン)

 準グランプリの「Bunny Chow」は3人のコメディアンらが、週末開かれるロックフェスティバルに向かうロードムービー風展開の中で、それこそ南アフリカ的”ない交ぜ”の生きざまを見せつけていく、ドキュメントタッチのフィクション。3人が本物のコメディアンたちだけに、どこまでが演技で、どこまでが地なのか判然としないが、乗りのいい会話にコミカルな演技、そして明るい音楽が楽しかった。3人は最優秀男優賞も獲得した。

 現代の精神病治療が抱える問題点を鋭く突いたジャイビ・ファデル監督の「精神錯乱」が、「新しい視点」賞とナント市民賞をダブル受賞した。医師の独善的な治療で回復に向かわない若いチュニジア人の苦悩と、彼の声を辛抱強く聞き続けようとする女性精神分析者の闘いぶりが描かれる。すさまじいばかりの若いチュニジア人役の真に迫った演技と、コンクリート打ちっ放しのビルを大胆に使った抽象的な演出が評価されたのだろう。

 最優秀女優賞は「千年鶴」のヒロイン、オ・ジョンヘさん。小学5年生から韓国の口承芸能パンソリを学び、12歳で全羅北道大会で最年少1位を獲得し、「千年鶴」の本編ともいえる「風の丘を越えて」(1993年)で映画デビュー、もちろん自声でパンソリを歌い上げている。イム・ギョンテク監督にとって 100作目となる「千年鶴」では、愛と音楽を完成させる意志堅固なヒロインを演じ切り、存在感があった。受賞は当然だろう。パンソリの歌唱も年輪を重ねた重みがあった。彼女は欠席だったので、義弟の妻役、オ・スンウンさんが代わってトロフィーを受け取った。

 若い観客賞は、アッバス・キアロスタミ監督の「10話」(2002年)の続編ともいえる「10話+4話」が選ばれた。「10話」は、車を運転する女性が代わる代わる乗ってくる人物との会話を通じて、悩んでいた息子との関係を見いだしていく。車内という狭い空間での話ながら、人間への深い洞察に優れていた。キアロスタミ作品の女優でもあるアクバリ監督は、同じ設定で4組の人と出会い、生活やフェミニズム、自由のためのもがきなどついて、女性ならではの切り口で迫っていた。

* * *

閉会式後のパーティー。あちこちでゲストを囲んだり、映画ファン同士での歓談が繰り広げられた=シティ・コングレ

 今年の閉会式は、本当に質素だった。3年前までは、クロージングの上映の後、3大陸持ち回りでダンスや音楽などがにぎやかに披露され、雰囲気を盛り上げた。ナント大学の日本人留学生が着物姿で登場したこともあった。それが全然無く、映画が終わるとすぐに表彰式。そこまで経費節減を迫られているのだろうか。そういえば、県知事や市長主催のパーティーも開かれなかった。会期中、1回もパーティがないなんて、今までなら考えられなかった。

 そのせいではないだろうが、表彰式後のパーティーも華やぎに欠けた。例年、監督、俳優と地元映画ファンとの楽しい交流が午前零時を回っても繰り広げられるのだが、そんな交流の輪も少なかった。準グランプリと最優秀男優賞を受賞した「Bonny Chow」の出演コメディアンや、モロッコのラフォール監督と主演女優たちはあいきょうを振りまき、カメラにも収まっていたが、台湾のリー・カンション監督らゲストの多くが早々と会場から姿を消していたのも事実だ。

 閉会式への一般客の参加も、心なしか少なかったように思う。映画の鑑賞者は例年以上に多く思えたので、決して映画祭が不人気だということではないのだろうが、気懸かりだ。来年は30回、元気な映画祭として復活して欲しいものだ。

筆者紹介

桂 直之(かつら なおゆき) 北大卒。1972年、河北新報社入社。学芸部で映画評担当。山形総局長、編集局次長を経て2007年4月から三陸河北新報社常務。三大陸映画祭には1989年以来、13回訪問。NPO法人「シニアのための市民ネットワーク仙台」の会報にコラム「なんでもシネマ」を連載中。地域FMラジオ石巻で月2回「シネマ・パラダイス」を担当している。