東京国際映画祭2007

3.世界のレベル知る格好の部門

2007/10/27

 今年、新設されたのがワールド・シネマという部門です。これは世界で話題になっている優れた新作を、欧州の作品を中心に紹介する部門ということ。そんな優れた新作なら、むしろコンペティションに入れるべきではないのか、という疑問が起こるところですが、実は国際映画祭の規約で、他の映画祭で受賞済みの作品は2度受賞できないと定められていて、他の映画祭のコンペに出品されたものは、前もってコンペから外しておく必要が出てくるわけです。今年もコンペに選定していたある作品が、直前にヴェネチア映画祭のコンペに出品されてしまい、コンペから外さざるを得なくなった、という話を聞きました。こんなところからも、世界の映画人の中での東京の位置づけがわかってくるわけですが、ともあれ、映画ファンにとっては、世界の映画祭のレベルを知る上で格好の部門、ということになるかもしれません。

 私も、見逃していた作品をここでフォローアップすることが出来ました。「カリフォルニア・ドリーミン(エンドレス)」と「マイ・ブラザー」で、どちらも今年のカンヌ映画祭のある視点部門に出品されていました。実は、コンペ作品の「迷子の警察音楽隊」も、ある視点部門に出品されていたのですが、「カリフォルニア・ドリーミン」は、ある視点賞を受賞、「迷子」は何も受賞しなかったために、東京ではこのように振り分けられたのでした。

 今年のカンヌは、この欄のレポートでも紹介した通り、ルーマニア映画のニュー・ウェーヴに大きな注目が集った年でした。「カリフォルニア・ドリーミン」は、パルム・ドールを受賞したクリスティアン・ムンジウの「4か月3週間2日」と並んで、とても評価が高かった作品です。ストーリーは、ルーマニアの国境にある小さな駅の駅長が、正規の査証を持たず、緊急にコソボ紛争へ向かう米軍を乗せた列車の通行を拒否したことから起こる、村を巻き込んだ大騒動を描いたもの。駅長は、子供の頃にルーマニアがソ連に侵攻されて以来、米軍がルーマニアを解放しに来てくれるのを密かに待ち続けていた、というのが伏線になっていて、題名には、ルーマニア人のアメリカに対する複雑な思いが込められています。監督のクリスティアン・ネメスクは撮影直後に急死し、編集に立ち会えなかったために、作品としては未完の印象があるのですが、その隙を埋めるだけのユーモアとペーソスに溢れた作品で、優れた才能の夭折が惜しまれました。

 もう1本、楽しみにしていたのがダニエレ・ルケッティの「マイ・ブラザー」でした。原題は“僕の兄弟は一人息子”といい、左翼運動へ突き進む優秀な兄と、地元のファシスト党へ入党する出来の悪い弟という、まるで共通点のない正反対の兄弟(ゆえに、兄弟だが一人息子同然)の青春を描いたもの。明らかにマルコ・トゥリオ・ジョルダーノの「輝ける青春」の成功に触発されて企画された映画のようですが、監督のルケッティは、フランコによって作られ、戦後もフランコの信奉者が残っている町を舞台に、マッチョなだけではない、欠陥のあるファシストの姿を描いたところが新しいと思う、と言っていました。実は、ルケッティのデビュー作「イタリア不思議旅」を日本公開したのが私が勤務していた頃のフランス映画社でした。それ以降、日本では彼の作品が公開されていないのは残念ですが、イタリアでは、ヒット作を生み出せる中堅として、しっかり地歩を固めてきており、この作品も、イタリアのティーンに大人気のリカルド・スカルマチョ(兄)と、実力派として注目されるエリオ・ジェルマーノ(弟)という二人の若手を主役にすえた青春娯楽映画でした。

写真上は、正式上映後に行われた観客との質疑応答の模様(左はイタリア映画専門家で通訳の岡本太郎氏)。その後で声をかけると、いつも変わらず陽気な彼は、前日にフランス映画社の柴田社長の案内で築地の魚市場を見学しに行ったとのことで、東京滞在を満喫しているようでした。

写真下は、「カリフォルニア・ドリーミン(エンドレス)」の一場面

筆者紹介

齋藤敦子さん 映画評論家。パリで映画編集を学んだ。フランス映画社宣伝部から90年にフリーとなる。G・ノエ、グリーナウェイの諸作品を字幕翻訳。最新作は「麦の穂をゆらす風」。「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)などの翻訳書も。