東京国際映画祭2007

5完.日本映画の危うさ

2007/10/29

受賞後の記者会見で、東京サクラグランプリを受賞したエラン・コリリン監督(左)と主演のサッソン・ガーベイ氏(右)

 台風一過の28日、渋谷Bumkamuraオーチャード・ホールで授賞式が行われ、以下のように受賞作品と受賞者が決定しました。予想以上に礼儀正しく、順当な結果だったと思います。審査員長のアラン・ラッドJr氏からお誉めの言葉があったように、昨年に比べ作品のレベルがあがっていますし、バラエティに富んでいます。問題は、前にも書いた通り、東京の特色がどこにあるのか、ですが、この点については、プログラミング・ディレクター矢田部氏のこれからの奮闘に期待することにしましょう。


コンペティション部門
東京サクラグランプリ 「迷子の警察音楽隊」監督エラン・コリリン(イスラエル)
審査員特別賞 「思い出の西幹道」監督リー・チーシアン(中国)
監督賞 ピーター・ハウイット監督「デンジャラス・パーキング」(イギリス)
女優賞 シャファリ・シャー「ガンジー、わが父」監督フェロス・アッバス・カーン(インド)
男優賞 ダミアン・ウル「トリック」監督アンジェイ・ヤキモフスキ(ポーランド)
芸術貢献賞 「ワルツ」監督サルバトーレ・マイラ
観客賞 「リーロイ!」監督アルミン・フォルカース
アジアの風部門
最優秀アジア映画賞 「シンガポール・ドリーム」監督イェンイェン・ウー&コリン・ゴー
スペシャル・メンション 「ダンシング・ベル」監督ディーパク・クマーラン・メーナン
日本映画・ある視点部門
作品賞 「実録・連合赤軍―あさま山荘への道程」監督若松孝二
特別賞 「子猫の涙」監督森岡利行

 いつもは日常生活に追われて、なかなか正面から東京映画祭と向き合うことをしてこなかったのですが、20年目を迎えた今年、レポートをすると決めて何度か通ううちに、不満ばかりではない、映画祭のよさも見えてきました。それは映画や映画人との出会いの場としての利点です。今年は六本木ヒルズ1階のヒルズ・カフェを期間中“ムービー・カフェ”に改装し、公開記者会見を開いたのはいい試みだったと思います。まだあまり浸透していないようで、一般の参加が少なかったのは残念でした。広報のあり方と共に今後の課題でしょう。私も六本木ヒルズで、成瀬巳喜男の「浮雲」のセットの保存に奔走している舞台・映画美術家の星埜恵子さんにばったり会って、撮影所の技術の伝承が途絶えようとしている話を聞いたり、マルジャン・サトラピのコミック版「ペルセポリス」を翻訳した詩人の園田恵子さんから映画化以後の話を聞いたり、いろんな面から映画について考える機会があって、とても有意義でした。とはいえ、すべて立ち話だったので、願わくば、以前、渋谷Bunkamuraに儲けられていたような、プレス用のミーティング・ポイントが会場のすぐそばにあったら、上映の合間にもっと多くの人と出会うことができたのではないかと思います。また、映画祭という機会をどうやったらもっと活用できるかを考え、映画人の方からもアプローチしていくこと、それが可能な道を映画祭が開いてくれることも大切ではないかと思いました。

 今回、石坂健治氏を始め、様々な人と映画の話をしていて、ひとつの大きな問題が見えてきました。それは日本映画の危うさです。フランスのように助成制度が上手く行っていないのはなぜか、後発の韓国プサン映画祭に東京がやすやすと追い抜かれてしまったのはなぜか。それはとりもなおさず、今の日本における映画の位置のあやふやさの反映なのだと思うのです。

 私はうかつにも今までまったく気づかなかったのですが、東京国際映画祭を主催するユニジャパンは、実は文部科学省の管轄ではなく、経済産業省の管轄下にあります。つまり、日本では映画は作品ではなく、商品だということ(映画館はパチンコ店やバー・キャバレーと同じ風俗営業の扱い)です。なるほど、映画祭が突然コンテンツ・フェスティバルを始めた理由が腑に落ちました。映画は産業だという意識の経産省の下、芸術としての映画を発見するのが目的の映画祭を開催すること自体に無理があるのです。しかも、斜陽を迎えた日本映画をどういう方向へ復興して行くのでしょう、商品として? 芸術作品として? しかも、日本映画の助成を行っているのは文化庁(文部科学省)、海外へ日本映画を紹介したり、各国の映画を日本に紹介している国際交流基金は外務省の管轄です。これでは国策として一丸となって映画を援助してきた韓国に抜かれるのは当たり前です。

 “映画とは何か”を日本の行政が認識し直すことから始めなければ、東京国際映画祭の成功はおろか、日本映画が韓流のように、あるいはルーマニアのように、ルネッサンスを迎えられることはない、と私は思うのです。

筆者紹介

齋藤敦子さん 映画評論家。パリで映画編集を学んだ。フランス映画社宣伝部から90年にフリーとなる。G・ノエ、グリーナウェイの諸作品を字幕翻訳。最新作は「麦の穂をゆらす風」。「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)などの翻訳書も。