デスク日誌

あらがう人

 ままならないと分かっていながら、あらがうことをやめない人がいる。そんな人が、すごく気になる。
 東日本大震災の復興事業で延伸工事が進む三陸沿岸道路。立ち退きを拒み続けていた老人の住まいが、行政代執行で取り壊された。
 行政の手続きに落ち度はない。公共の利益にもかなう。それでも老人は最後まで抵抗した。守りたかったのは何だろう。
 記事は事実のみを短く伝えたが、実は代執行当日、現場から老人が行方をくらましていた。人騒がせではあるが、少し痛快だった。
 先日、町内会の夏祭り協力金を集めに回った。1口500円。最後に奥まって建つ一軒家を訪ねた。
 奥の暗闇からはい出てきたのは、手足に障害のある老人だった。千円札を差し出し、かたくなにお釣りを受け取ろうとしない。言葉も不自由で、押し問答を続けてやっと分かった。
 「祭りに協力したいが、この体ではどうしようもない。せめてお金で協力させてくれ」。確かにそう言っている。この老人も必死で何かにあらがっていた。
 祭りばやしは不意の雨音にかき消され、たぶん老人宅には届かなかった。
(盛岡総局長 矢野奨)


2018年08月10日金曜日


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