デスク日誌

続・止まった刻

 この夏も九州の知人が三陸を訪ねてくれた。自治体職員の自主研究グループで年に一度、東日本大震災の被災地訪問を続けている。
 参院選の取材がヤマ場に差し掛かっていた時期で現地の案内を買って出ることはかなわなかったが、それでも旅の帰途、数人が総局に立ち寄ってくれた。
 突然の訪問で土産も用意していない。とっさに渡したのが岩波書店の新刊案内「止まった刻(とき) 検証・大川小事故」のちらしだった。
 児童ら84人が津波の犠牲になった石巻市大川小。地震発生から津波襲来までの50分間を克明に再現し、何が起きたのかを世に問う本紙年間企画の書籍化だ。
 「悲劇を悲劇のまま終わらせない」。そんな執念の取材を遠くから見守るしかなかった者には、この本を多くの人が手に取ってくれるよう手伝うぐらいのことしかできない。
 後日届いた礼状には「盛岡駅で買い求め、帰りの道中に読み通しました。町の教育長や教職員に何が何でも読んでもらわなければならない本です」とあった。
 被災地支援を続ける知人と震災を伝え続ける記者。図らずも間に立ち、交錯する二つの思いを見届けた。
(盛岡総局長 矢野奨)


2019年08月14日水曜日


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