河北春秋

 お盆休み、懐かしい同級生と集った方も多かろう。狭い田舎から飛び出したい、と念じた10代から人生を重ねると、いつしか古里が自分の血肉になっていたと気付く。作家にとっては創造の根っこになるのだろう▼青森県出身で芥川賞に決まった高橋弘希さん。受賞作『送り火』に津軽の景色と暮らし、送り火の祭りを濃密に描き、そこで起こる若者の暴力事件を幻想的な物語に包んだ。執筆に詰まった時、少年期の「記憶の津軽」を思い出した途端に筆が進んだという▼漫画家さくらももこさんの『ちびまる子ちゃん』には、富士山が見える古里、静岡県の旧清水市(現静岡市)の風景がある。自身をモデルに小学3年の女の子と家族、同級生の日々を滑稽に、しみじみと描き、アニメが大ヒット。国民的と評される人気のさなか、53歳で逝った▼八百屋の父は「超呑気(のんき)」、母は「心配性で怒りんぼう」、祖父は「ズルくてイジワルで怠け者」−。自著『もものかんづめ』の家族評は辛口だ。が、さくらさんは小さな出来事にも笑いを見つけ、誰でも日常を愛すべき物語に変えられると漫画で伝えた▼静岡の友人によると、地元名物は昔「お茶、次郎長、サッカー」だったが、「ちびまる子」が加わった。永遠に終わらぬ古里の物語に生き続けるのだろう。(2018.8.29)


2018年08月29日水曜日


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