河北春秋

 北秋田市阿仁合の男性から聞いた話。山菜採りに出掛けた時だった。収穫した山菜とおにぎりが入った背中の荷物に、クマが乗っかってきた。「勘弁してください」と言ったが、離れない。おぶったまま何キロも歩いた。牧場に出ると、クマは逃げた▼秋田市出身の美術家鴻池朋子さんはこの話を絵にした。村人から昔話を聞いて手芸作品に仕上げるプロジェクトの一環。これまで、クリ拾い、犬の出産、息子の死など住民一人一人の大切な物語を作品化した。横手市の秋田県立近代美術館で11月25日まで開催中の個展『ハンターギャザラー(狩猟採集民)』に出品されている▼主な展示は、奥羽山脈や野生動物を描いた巨大な板彫り絵画、毛皮で作った山のオブジェ、冬の阿仁川でのパフォーマンスを記録した映像など。人間の視点ではなく、動物などの視点を借りて制作しようと試みた斬新な作品が並ぶ▼現代美術の旗手として活躍する鴻池さん。東日本大震災後、表現に迷いが生じた。暗中模索の日々が続く中、故郷の秋田をはじめ東北に足を運んだ。地元住民との創作活動などを通し、「違う風景が見えてきた」という▼個展では鴻池さんの震災後の歩みをたどることができる。東北の風土から生まれた数々の作品。大地のエネルギーがほとばしる。
(2018.9.25) 


2018年09月25日火曜日


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