河北春秋

 「2月に入ると、そわそわし始めるのが渓流釣り師」と、一関市の自然派エッセイスト村田久さん(76)は語る。道具の準備や仲間との打ち合わせで如月(きさらぎ)はあっという間に過ぎ、岩手、宮城両県では3月1日に渓流釣りの解禁を迎える▼三陸沿岸の河川にはヒカリ、ひかりっこなどと呼ぶサクラマスの若魚を求めて、釣り人が繰り出す。ヒカリ釣りは春彼岸まで、といわれる。20センチに満たない魚体の息をのむばかりの美しさが、浅春の熱狂を誘う▼「日の光を張り付けたよう」と、村田さんは表現する。東日本大震災の後、親魚の河川回帰が減り、春光をまとう銀鱗(ぎんりん)も影が薄くなったと感じている。以前のように、1日に20匹、30匹と釣り上げるのは至難の業だ。「1匹でいいんです。手のひらの魚を眺め、ああ春が来たんだなと感じたい」▼福島県の阿武隈川流域は、今年も休漁が解けない。食品衛生法の基準(1キログラム当たり100ベクレル)を超す放射性物質が、いまだに渓魚から検出される。「国や県の許可が出ないんです。どうしようもない」と、阿武隈川漁協(福島市)の役員はあきらめ顔だ▼「年齢も年齢だし、川に出て歩けるだけで幸せを感じます」。村田さんが言うのは、釣りざおを携えての川歩き。福島の釣り人には、なお切実に響くことだろう。(2019.2.10)


2019年02月10日日曜日


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