河北春秋

 写真には、継ぎはぎの跡がある学生服が2着。1着は入学時に着た制服、もう1着は長崎の原爆に遭った時に着ていた。当時15歳だった指方真夫さんの制服。写真家の大石芳野さんが撮影した▼真夫さんは原爆から19日目に息を引き取った。母親は97歳で亡くなるまで、お盆のたびに制服を虫干しし、抱き締めて泣いたという。制服を持つ真夫さんの姉、和子さんを撮った写真にも悲しみが宿る▼ベトナム、カンボジア、コソボ、沖縄…。大石さんは女性や子どもら戦渦に巻き込まれた市民を半世紀にわたって取材してきた。やり残すことができない仕事として22年前から取り組むテーマが長崎の被爆者だ▼何度も被爆者に会い、心を通わせながらシャッターを切った。4月出版の写真集『長崎の痕(きずあと)』(藤原書店)に写真を収録した。戦争当時は子どもで今は老人になった被爆者たち。悲しみをたたえたまなざし、深く刻まれたしわ、ケロイド…。その一つ一つに消えることがない苦しみがにじむ▼「表面的に平和と見えても、1度戦争を体験すると、それぞれの国の個人の中では戦争がいつまでも続く。終わりはない。だから戦争は悪なのだと私は叫びたい」と大石さん。あす9日は長崎原爆の日。核廃絶を願う被爆者の思いを乗せ、鎮魂の鐘が鳴り響く。(2019.8.8) 


2019年08月08日木曜日


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