河北春秋

 兼好法師の生き方は『徒然草』の有名な言葉に凝縮されている。「初心の人、二つの矢を持つことなかれ」。初心者は2本の矢を持つと、最初の矢をおろそかにする。仏の道に励むには一瞬も油断してはいけないことの例えである▼かと思えば、兼好の和歌の中には「出家しても期待通りの幸福が得られない」と嘆く歌もある。国文学者の三村晃功さんは『徒然草』は建前、和歌が本音とみる▼こちらも建前と本音があるのか。元慰安婦を象徴した少女像などの展示が中止になった国際芸術祭あいちトリエンナーレに文化庁が補助金を交付しないと発表した。建前は手続きの不備。だが本音は内容に問題があると判断した。そう疑う声が多い▼展示はテロ予告など抗議が殺到して中止。菅義偉官房長官が補助金見直しを示唆していた。補助金不交付決定に文化芸術関係者は憲法が禁止する検閲だとして猛反発。「表現活動が萎縮する」「卑劣な行為の追認だ」と批判を強める▼兼好は『徒然草』で「うわさと実際に見るのとでは違う」と述べた。展示に抗議を寄せたのは作品を見ていない人がほとんどだった。歴史と同様、作品も実際に向き合わなければ本当の姿が見えにくい。自分の意に沿わないからと言って、公権力が見る機会を奪っていいのだろうか。(2019.9.28) 

 


2019年09月28日土曜日


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