河北春秋

 化学者の福井謙一さんは枕元に紙と鉛筆を置いて寝た。アイデアが浮かぶと暗い中で鉛筆を走らせた。「すぐに忘れるアイデアこそ価値がある」と語り、散歩にもメモを持ち歩いた▼その積み重ねが画期的な「フロンティア電子理論」を生む。福井さんが日本人初のノーベル化学賞を受賞したのが1981年。この年、リチウムイオン電池の開発が始まった。開発には同理論が密接に関係しているという▼パソコンや携帯電話、電気自動車…。幅広い分野で活用され、人々の生活に革命をもたらしたリチウムイオン電池。開発した旭化成名誉フェローの吉野彰さん(71)が今年のノーベル化学賞に決まった▼繊維会社に入社し、社内では異質の基礎研究に取り組んだ。思うように事業に結びつかず、孤独を感じたらしい。重視したのが「社会のニーズ」。社外の第三者の意見を積極的に聞いた。充電式電池の小型軽量化を望むビデオカメラメーカーの声を取り入れたことが開発を後押ししたそうだ▼IT機器の市場は急速に拡大し、時代を先取りする研究になった。今後は環境問題の解決にさらに貢献することが期待される。吉野さんと福井さんとの共通点は独創的で自由な発想だろう。「日本のお家芸」である化学の研究にはその精神が受け継がれている。(2019.10.10)


2019年10月10日木曜日


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