河北春秋

 正岡子規は古里の松山市に伝わる郷土料理「松山鮓(ずし)」に特別な思いがあり、多くの句を詠んだ。松山鮓は地魚を使ったばらずしのことで「もぶり鮓」ともいう。夏目漱石が松山を訪れた際はこれでもてなした。<われに法あり 君をもてなす もぶり鮓>▼誰にも古里の味がある。古里から離れて暮らす人が口にすれば、昔の楽しい食卓を思い出すこともあるだろう。認定NPO法人難民支援協会が作った『海を渡った故郷の味』(トゥーヴァージンズ)の新装版を読み、そう思った▼15の国・地域から日本に来た難民の郷土料理を紹介したレシピ集。彩り鮮やかで難民の逸話も載せている。クルド人女性は13歳の時に母親から「結婚したら家族と一緒に食べるように」とクルド料理を教わったという▼世界の難民は約7000万人。日本は認定のハードルが高く、2018年は約1万人が難民申請したが、認定は42人だけ。多くは知人や家がなく、言葉も分からないまま来日する▼<足なへの病いゆとふ伊豫の湯に 飛びても行かな鷺(さぎ)にあらませば>。晩年、病床の子規は道後温泉で足の傷を治した鷺の伝説を題材に望郷の思いを詠んだ。故郷への思いはどの国の人であろうと一緒。古里で家族と再び食卓を囲む日を夢見る彼らに対する支援が欠かせない。(2020.2.25)


2020年02月25日火曜日


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