河北春秋

 「春が二階から落ちてきた」。伊坂幸太郎さんのミステリー『重力ピエロ』はそんな書き出しで始まる。伊坂さんの名を一躍有名にした印象的な表現だ。春が? 2階から落ちる? どうやって? 読者はしばし戸惑う▼作品ではすぐに種明かしされる。春は季節の春ではなく、主人公の弟の名前だった。続発する放火事件を絡めて、兄と弟の物語が展開していく。もちろん、冒頭の文章は人名と季節の春が互いに響き合って、不思議に映像的な効果を上げている▼春が2階から…。ソメイヨシノが満開を迎えつつあるこの時季、春が階段を転げ落ちたような気分になってしまう。新型コロナウイルス感染症が各地に広がって、お花見もままならない。戦々恐々と日々を過ごしながら、あすは二十四節気の清明▼仙台市内では、英国風パブでクラスター(感染者の集団)が発生した。若い年代ほど活動的だから、知らず知らずに感染を広げてしまう恐れがある。無症状の人から感染する危険性もあるという。それがこの病気の怖いところ▼<春風や闘志いだきて丘に立つ>。明治生まれの俳人高浜虚子の句は、新年度にふさわしい清新さがある。例年ならさまざまに闘志を燃やす季節。ことしは感染防止に闘志を向けるじっと我慢の春だ。残念だけれど。(2020.4.3)


2020年04月03日金曜日


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