河北春秋

 映画雑誌「キネマ旬報」による恒例のベストテンで、2019年の日本映画1位は、長年脚本家としても活躍する荒井晴彦さんが監督を務めた『火口のふたり』だった▼原作は、直木賞作家白石一文さんが12年に発表した同名小説。かつて恋愛関係にあったいとこ同士の男女が再び求め合う姿を、大胆な描写を交えて描いた。原作では福岡県だった舞台を秋田県に移し、同県羽後町の西馬音内盆踊りを印象的に登場させた▼題名にある火口は、主人公の男女2人の置かれた状況の暗喩であるとともに、富士山のことでもある。原作、映画とも終盤、活火山である富士山の大規模噴火が迫っていることが示される▼国の中央防災会議の作業部会がこのほど、富士山で大規模噴火が起きた場合の影響の試算結果を公表した。過去最大とされる「宝永噴火」(1707年)と同規模の噴火が起きれば、除去が必要な降灰は約4.9億立方メートル。東日本大震災で出た災害廃棄物の約10倍に当たる。首都圏の交通網や物流はまひし、ライフラインも断たれるという▼映画の男女はラスト、家にこもり、噴火前の富士山や避難の状況を伝えるテレビ番組を見ている。静けさに満ちた場面は、実際に噴火が起きた場合の混乱と被害の大きさを逆に想起させ、妙に生々しい。(2020.4.22) 


2020年04月22日水曜日


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