河北春秋

 歌手の水前寺清子さんは新曲の収録に際して、歌うことに激しく抵抗したことがあった。演歌で順調な歩みを見せていたのに、渡された楽曲はマーチだった。どこの運動会の歌なのか。思わず尋ねたという。渋々吹き込んだのが1968年に発表された『三百六十五歩のマーチ』だ▼時代は高度経済成長期。歌い手の思いとは裏腹に、前向きで明るい歌はミリオンセラーとなり、国民的人気を得た。その後も歌い継がれ、故郷熊本市を襲った熊本地震では復興応援歌としても歌われた▼新型コロナウイルスの感染拡大に伴い発令された緊急事態宣言が全面解除されてから、きょうで1カ月。解除後の経過は、さながら『三百六十五歩のマーチ』の一節〓一日一歩 三日で三歩 三歩進んで二歩さがる−といったところか▼無観客ながらもプロ野球が開幕し、都道府県境をまたぐ移動自粛も解禁された。宣言前に近い生活が、徐々に戻りつつある。とはいえ、収束はまだ見通せない。東北でも今月に入って宮城、福島両県で感染者が確認されるなど、移動がさらに盛んになるであろう今後へ向けて不安な要素もある▼水前寺さんは「休まないで 歩け」と歌った。コロナ禍の今は、歩幅は狭くても、少しずつ前へ。時には立ち止まって冷静になるのもいい。(2020.6.25)
(注)〓は庵点(いおりてん)。歌記号。


2020年06月25日木曜日


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