河北春秋

 「私たちには香港がある」。この短い言葉を中国の現代作家たちはよく口にするらしい。中国出身で日本国籍を持つ芥川賞作家の楊逸さんが近著に書いている。彼らにとって「香港の自由は『希望』です」と楊さんは言う▼中国の作家たちは香港の自由がいずれ本土にも広がるのを渇望し、香港人もまた必死になって自由を守ってきた。芥川賞受賞作の『時が滲(にじ)む朝』で天安門事件を背景に若者の挫折と苦悩を描いた楊さんも、誰よりも強く自由を願う▼きのう、香港の統制強化を狙う「香港国家安全維持法」が中国で成立した。共産党や政府に批判的な活動が犯罪として取り締まられる恐れが強くなった。集会や言論の自由は無意味になりかねない。希望であった香港の自由は失望に一変した▼一国二制度の下で、香港は国際金融のアジアの拠点として繁栄してきた。しかし、民主化運動の弾圧などによって、その地位と信用は低下した。国家安全維持法はさらなる香港の衰退を招き、中国全体の経済にも悪影響を及ぼすだろう▼中国共産党による弾圧を恐れる相当な数の香港の人々が、居住地を外国に移すとみられる。香港脱出はすでに米国やカナダ、台湾などに向けて、始まっているという。日本もこの人たちの受け入れを考えるべき時を迎えた。(2020.7.1) 


2020年07月01日水曜日


先頭に戻る