河北春秋

 古典落語では長屋を所有する大家と店子(たなこ)がよく登場する。その一つに『小言幸兵衛』がある。主人公は小言を言うのが三度の飯より好きな大家。貸家を借りたいと訪ねてくる男たちに次々とけちをつける▼最初の豆腐屋には「口の利き方が悪い」と説教を連発。次の仕立屋には男前な一人息子がいると聞き、眉をひそめる。「近くに古着屋の一人娘がおり、恋仲になるに違いない。両家が嫁に出すか婿に出すかでもめて若い2人が心中する」と決め付け追い返す▼いつの時代も大家と店子の関係は難しいのかもしれない。今春以降、新型コロナウイルスの感染拡大によって飲食店街の客足が急減し、ビルの賃貸業者と居酒屋の親方やスナックのママさんたちの間にさざ波が立った▼宮城県北で最大級の飲食店街がある大崎市古川。当初、店子の間では家賃を減額してもらえるかどうかの話題で持ち切りだったという。「家賃が高い」とされるビルを中心に十数店が閉店する事態となり、一部は別の建物に移った▼賃貸業者は家賃を一時的に減額したり支援金を店に手渡したりして引き留めに躍起となった。自ら料理店を営む賃貸業者は「本気になって商売に打ち込む店はきっと客がついてくる」と強調。幸兵衛さんとは異なり、小言ならぬエールを送る。(2020.7.5)


2020年07月05日日曜日


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