河北春秋

 「プロに天才はいない」。将棋の大山康晴15世名人がそう語っている。天才ばかりと言われる棋界に対して皮肉を言ったのではない。意味するところは、努力なしにはプロの世界では勝てないという現実の厳しさだろう▼高校生棋士の藤井聡太七段の書棚の写真をある雑誌で見た。圧倒されるほど数多くの棋書が整然と並んでいた。超が付くほど難解な江戸時代の詰め将棋集『詰むや詰まざるや』もあった。小学生の時から取り組んでいたそうだ▼早熟の天才は努力の人でもあることを書棚が明快に証明していた。その天才による将棋史に残る偉業だ。現役最強と言われる渡辺明棋聖に挑み、先に3勝を挙げて栄冠を手にした。17歳11カ月、最年少のタイトル保持者の誕生だ▼藤井さんは棋聖戦と並行して王位にも挑戦中だ。こちらは47歳の木村一基さんに2連勝。木村さんは昨年、最年長で初タイトルを奪取し、これまでの苦難を思い出したのか、感極まって涙を見せた。30歳の年齢差。この勝負も見逃せない▼平成の将棋界は、羽生善治九段の「羽生マジック」に沸いた。神のような一手で劣勢を羽生さんは覆した。藤井さんもコンピューターが読めないような奇手妙手を繰り出すという。この人の視線の先には、前人未到の8冠制覇があるはずだ。(2020.7.17) 


2020年07月17日金曜日


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