河北春秋

 『彼女は安楽死を選んだ』という特集番組を昨年6月、NHKで見た。神経の難病に侵された女性がスイスに渡り、医師に処方された薬剤を自ら点滴で投与し、亡くなる。その瞬間までテレビカメラが追った▼「死を選ぶことはどう生きるかを選ぶのと同じように大事だと思う」。安楽死を前に、病気のためにたどたどしくなった口調で女性が語っていた。女性の選択に共感する視聴者もいて、NHKには多くの感想が寄せられたという▼対照的に、生きる決意を固めた同じ病気の女性も番組は取り上げていた。病状が進み、人工呼吸器を付ける選択をした女性について、娘がこう語る。「家族としてはありがとだよね、母親の姿があるかないかは、私の中ですごく大きい」▼難病の女性患者への嘱託殺人容疑で医師2人が逮捕された事件は、あすで1週間。詳細はなお不明だが、金銭を得て主治医ではない医師が薬物を投与したとすれば、許される行為ではない。ただ、安楽死を望んだ患者の心情には、哀切な共感に似た思いも禁じ得ない▼難病患者の支援に携わる川口有美子さんがネットでこう書いていた。「人々のサポートを受けながら生きようと決めたなら、楽しいことはいくらでも見つけられる」。亡くなった女性の場合は、どうだったろう。(2020.7.29)


2020年07月29日水曜日


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