河北春秋

 今も朝食の時に悩む。納豆にするか生卵にするか。両方は過食とたたき込まれた。大学受験に失敗し、古里を離れて東京の予備校に通うため寮に入った。「納豆か卵どっちかだよ」。食堂のおばちゃんの表情は険しかった▼未知の地での不安は、時に希望以上に膨らむ。だから最初に会う人の印象や優しさは深く心に残る。福島県が会津地方で実施する移住・二居住体験事業「会津チャレンジライフ」はそこに注目した。参加申し込みが専用サイトで始まった▼鍵は地元住民による地域ディレクター。農業や林業、焼酎造りなど最大5泊6日の体験メニューを参加者と一緒に考え、出迎えから帰路に就くまで伴走する。地域とのつなぎ役、世話役だ▼県会津地方振興局によると、昨冬の第1回終了後、参加者51人の7割が会津への移住を前向きに捉え、既に7人が移り住んだ。「この人がいるから」と決め手は人にもあった。今冬はディレクターを1.5倍の37人に増やした▼一方で新型コロナウイルス禍。人口減少著しい奥会津は感染者ゼロが続く。来訪者、受け入れ側双方が意図しない緊張を強いられるが、対策に気を配れば密な関係づくりも難しくないだろう。そういえば寮のおばちゃん、たまに納豆と卵両方をトレーに載せても見逃してくれたっけ。(2020.10.18)


2020年10月18日日曜日


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