河北春秋

 作家の大庭みな子さんは医者の家系に生まれた。祖父は馬に乗って往診し、父親も幼少時に馬に乗せてもらった。その記憶からか、父は「走る馬を見ると、胸がすかっとする」と言って、よく競馬場に出掛けた▼足が不自由になった晩年の父に付き添って、大庭さんも一緒に行った。競馬に関しては何も分からないけれど、やはり「走っている馬を見ると、血がかき立てられ、すっきりと爽快な気分になる」と大庭さんが書いていた▼馬券を買わなくてもテレビの中継が好きだという人は多い。大庭さんと同じように、全力疾走する馬の姿に心を動かされるからだろう。人間と馬との長い歴史の記憶が、どうやら、知らず知らずのうちに人には蓄積している▼かつてなく注目度が高いレースが29日にある。無敗の三冠馬コントレイル、無敗で牝馬3冠を制したデアリングタクト、そして史上初の芝GI8勝を挙げ、引退が決まっている牝馬アーモンドアイ。3頭が激突するジャパンカップだ▼コロナ禍のことし、感染防止のため、各競馬場では無観客開催が長く続いた。ファンにはやるせない年になった一方で、人間を激励するかのように実力馬が驚異的な記録を打ち立てた。血がかき立てられ、すっきりと爽快な気分になるレースが今度も見られよう。(2020.11.25)


2020年11月25日水曜日


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