社説

憲法記念日/改正へ世論は熟しているか

 官僚の不祥事などによる内閣支持率の低下とともに、憲法改正への政府と自民党の動きが失速している。客観的に見ても改憲を発議する政治状況にはない。ここは立ち止まって、より丁寧な議論を尽くし、国民の納得が得られる改正案に練り直すべきだ。
 自民党が先にまとめた改正案のうち最大の焦点となっているのは戦争放棄と戦力不保持を定めた9条だ。この問題を論じる前に過去の世論の動向を振り返ってみたい。最終的に、国民投票で憲法の改廃を判断するのは、有権者自身だからだ。
 新聞、テレビ等による過去70年間の膨大な世論調査を精査した研究によると、この間を通じて改憲を支持する人が護憲の支持者を上回った。護憲派が多かったのは1980年代の一時期と有事法制に対する反発が強まった2015年頃にほぼ限られる。
 全体的な傾向としては1990年代の初め以降、明らかに改憲支持者が増加した。共同通信社が4月に実施した世論調査でも「憲法改正の必要性」について「どちらかといえば」も含めると、7割が改正を支持している。
 ただし、こうした世論調査は具体的な条文を示しての質問ではなく、一般論としての改憲の是非だ。9条に限っては、今回の世論調査では改正賛成が44%、反対が46%と拮抗する結果となった。
 自衛隊に対する見方はおおむね一貫している。多くの調査で自衛隊を違憲と考える有権者は少数派で、自衛隊を合憲とする人が7割前後に漸増している。憲法学者の多くが違憲論を展開しても国民は憲法違反とは考えていない。
 こうした調査結果からは憲法改正に心理的抵抗感がさほどない有権者の姿が浮かび上がる。憲法の条文と現実との乖離(かいり)が問題にされてきたが、自衛隊に関しては世論は柔軟かつ冷静に憲法問題を見てきたと言ってよい。
 今回の世論調査で注目すべきは、改憲には反対していないものの、安倍晋三政権下での改憲に対し、反対が6割に上ったことだ。2020年を目標とするスケジュールにもやはり6割が反対した。
 安全保障を巡る国際情勢の変化に応じて政府は憲法解釈を変えてきた。条文を変えずに憲法内容を変えてきた歴史がある。解釈で事実上の改憲を繰り返してきた以上、期限を切って急いで条文を変える必要はない−。世論の所在はその辺にあるのだろう。
 諸外国を見れば、オーストラリアは過去25回、憲法改正を発議し、国民投票で20回否決されている。現状では日本もまた広範な国民の支持を得るのは困難ではないか。
 国の最高法規である。多くの政党で合意形成を図り、分かりやすく国民に伝えることが不可欠だ。丁寧なプロセスを踏むことが何より問われよう。憲法改正には十分な時間をかける必要がある。


2018年05月03日木曜日


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