社説

岩手県次期総合計画/理念ににじむ反骨と挑戦

 岩手県政の長期展望を明らかにする次期総合計画(2019〜28年度)の素案が発表された。自治体運営の最上位に位置付けられながら「役人の頭の体操」などとやゆされることも多い総合計画にあって、素案は異色の理念を提示してみせた。
 次期総計が問い掛けるのは「幸福とは何か」だ。「物質的な豊かさ」や「経済的尺度」で目指すべき将来像を明示してきた旧来の手法とは一線を画し、「心の豊かさ」や「地域や人のつながり」を大切にして県民一人一人の幸福度を高めていくとした。
 一見、捉えどころのない観念論のようだが、穏やかな言葉遣いの裏に隠された反骨と挑戦を見逃してはならない。
 素案は、国の重要施策である地方創生を「期待された効果が表れていない」と否定。大企業が潤えば中小企業や家計にも恩恵が滴り落ちるというトリクルダウン理論など安倍政権の成長戦略に総じて反意を表した。
 総計の策定責任者である達増拓也知事の政治的スタンスとの関連を指摘する向きもあろう。だが、単なる「政権への当て付け」と受け取るのは早計だろう。
 資源に限りがあることを踏まえて近年、国と国、地域と地域の成長競争より域内の経済循環を重視すべきだという主張が台頭している。定常型社会理論という。
 提唱者の広井良典京都大教授(公共政策)は「国内総生産が増えれば幸せになれるという考えに基づいて経済の拡大を追求した結果、人、物、財の東京一極集中を招いた」と指摘。「中央集権と成長型社会は表裏を成す」と見抜いた。
 戦後日本に価値観の転換を迫った東日本大震災の被災県が新たな針路を模索するのは、むしろ当然だろう。県主導で押し進める再生可能エネルギー開発は、その一例だ。
 岩手県は広大な県土と豊かな自然環境に着目し、震災発生の前から水力や風力による自前の電源開発に取り組んできた。今年1月にも、公営では国内最大級の高森高原風力発電所(一戸町)が営業運転を開始している。
 ただ、次期総計が掲げる理念は「幸福を守り育てる」と甚だ抽象的で、これを唐突に提示された県民や議会の間には困惑が広がっている。
 県内各地で開催した県民説明会では、理念を是としつつも「具体策は新味に乏しく、過去の総計との違いが分からなくなる」と辛口の感想が相次いだ。指摘はもっともで、県には理念を具体的な形にする努力を求めたい。
 総計が成案となるには県議会の議決を経なければならない。議員からは既に「そもそも行政が『幸福』を定義していいのか」など多くの疑問が投げ掛けられている。
 次期総計を審査する特別委員会を設置した県議会には、県民の理解が深まるよう議論を尽くしてほしい。


2018年07月26日木曜日


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