社説

介護離職10万人/実効性ある対策が見えない

 家族の介護や看護を理由に仕事を辞めた人が昨年は9万9000人に上った。総務省が先ごろ発表した就業構造基本調査で明らかになった。
 政府は「介護離職ゼロ」を掲げるが、離職者は10万人前後で推移している。介護現場の人材不足にも改善の気配はなく、高齢化が進む中で国や企業のより実効性のある対策が求められよう。
 6月に総務省が公表した家族介護者の調査では、仕事を続けたいと思いながら離職した人のうち、その後に就職活動をしても再就職できない人が6割近くに上った。親の介護が必要になる中高年ともなれば、いったん離職すれば再就職はかなり困難になる。働ける時間の制約も加わり、正規から非正規に転じるケースも多い。
 介護休業制度は法改正で3回までの分割取得が可能になり、介護給付金も引き上げられた。しかし、調査では家族介護者の9割が利用したことがなく、その6割は制度の存在すら知らなかったという。
 先が見通せず、親が遠隔地にいればなおさら困難が増すのが介護だ。勤務先に休業制度があっても、取得時期に悩み、結局は退職を選ばざるを得ない現状も浮かび上がる。
 国は介護離職者のうち年1万5000人程度が在宅サービスや施設利用の不足が原因とみて、施設整備などで解消を図るという。団塊の世代が全て75歳以上になる2025年を控え、20年代初頭までに50万人分の受け皿を用意する方針を打ち出している。
 しかし、それを担う人材確保が進んでいない。厚生労働省によると、25年度には不足する介護職員が全国で33万7000人に上る見通しだ。
 現在でも職員不足で定員を下回る利用者しか受け入れられない特別養護老人ホームがある。短期入所(ショートステイ)サービスを停止する施設も珍しくない。過酷な労働の割に賃金は低く、離職率は高い。このため介護職員の求人倍率は、全職種平均の2倍を超えている。
 外国人労働者に政府は活路を求めるが、どれだけ定着するのか、現場の受け入れ準備ができているかなど、課題は多い。量も質も確保するためには、目に見える形での処遇改善は不可欠だろう。
 一方で、国は要支援など軽度の訪問・通所サービスを介護保険の枠組みから市区町村の「総合事業」に移すなど給付抑制の動きも進めている。助けがあれば家で暮らせる高齢者が支援を受けられなくなれば、従来の生活を維持するため家族が仕事を諦める事態になりかねない。
 「介護離職ゼロ」とは逆行する動きではないか。総合事業では地域格差や、利用者の経済力による格差も懸念される。介護保険の理念そのものが揺らぐ中で、要介護者は確実に増えていく。事態を改善するために腰を据えた取り組みが必要になっている。


2018年07月30日月曜日


先頭に戻る