社説

広島原爆の日/被爆国日本の役割、今こそ

 73年前の8月6日は今年と同じ月曜日だった。広島は朝から晴天。空襲を気に掛けながら、一人一人がいつもの生活を始めていたに違いない。
 きょう広島は「原爆の日」を迎えた。9日には長崎で平和祈念式典がある。長い歳月をかけ核廃絶を訴えてきた被爆者らの平均年齢は82歳を超えた。鎮魂の思いを新たに、被爆者の声に耳を傾けたい。
 「戦後、一度も核兵器が使われていないことに私たちは寄りかかっていないか」。広島の被爆者で、日本原水爆被害者団体協議会の藤森俊希さんは言う。原爆は遠い昔話ではなく、今の危機だと。
 北朝鮮による核の脅威は、6月の米朝合意で遠のいたかに見えたが、全く予断を許さない。中東のイラン核合意もほころびを見せる。世界の核弾頭約1万4千発の9割以上を保有する米ロは、7月の首脳会談でも核軍縮条約の延長交渉を進展させられず、戦力増強に向かっている。
 核廃絶を目指したはずの世界の足並みは定まらず、むしろ先行きは混沌(こんとん)としている。
 そんな状況を揺さぶった核兵器禁止条約。昨年、国連で122カ国・地域が賛成し採択されたが、1年過ぎても発効できないでいる。批准国が11カ国にとどまり要件を満たさないためだ。核保有国の妨害や圧力があるとされる。
 条約は、核兵器の開発、保有、使用を全面的に禁止した。抑止力を含め「核への依存」そのものを否定する。
 保有や抑止力を前提に、削減・不拡散を目指す核拡散防止条約(NPT)に先進国などは身を任せる。非人道性を真正面から問う条約推進国の主張とは隔たったままだ。
 アプローチの違いという日本政府の説明では済まない。禁止条約は核軍縮のもたつきへの反発から生まれた。であるなら、最も問われるのは核保有国の不作為であろう。
 米国の「核の傘」に依存する日本政府は採択に反対した。そして条約の推進役として昨年のノーベル平和賞を受賞したNGO「核兵器廃絶国際キャンペーン」の事務局長が来日した際、安倍晋三首相はあろうことか面会を断った。
 同じ「核の傘」に入っているオランダ政府は市民の声に押され、条約の交渉会議に参加し意見を述べた。対話の否定からは何も生まれない。
 禁止条約の前文に「広島、長崎の被爆者の受け入れ難い苦しみを留意する」と書かれた意味をいま一度かみしめたい。二つの条約を巡る対立を和らげ責任ある橋渡しができるとすれば、核の惨禍を知る被爆国の日本しかあるまい。
 共同通信社が先日まとめた被爆者アンケートでは「政府は条約に参加すべきだ」との回答が8割に上った。被爆者の強い意志を政府は謙虚に受け止めるべきだろう。
 「核なき世界」は政治がつくるものではない。困難を超え多くの世界の人々と共通理解を深めていかねばならない。


2018年08月06日月曜日


先頭に戻る