社説

原発賠償金据え置き/被害救済の備えを怠っている

 原子力災害が起きた際の損害賠償の仕組みを議論してきた政府の専門部会が、賠償額の引き上げを見送る最終案をまとめた。
 東京電力福島第1原発事故の後、引き上げの必要性が指摘されたにもかかわらず、国と電力各社の間で調整がつかなかったという。民間保険契約による1原発の賠償額の上限は結局、1200億円で変わらないことになる。
 それ以上の経済的損失が賠償されないわけではないが、福島第1原発事故では8兆円もの賠償費用が見込まれており、いかにも低額。
 ひとたび重大事故が起きれば、想像を絶する被害額になるのは明らかなのに、備えは全く不十分なまま。原発事故の教訓を受け止めず、現実に被害を受けることになる国民にも向き合っていない。
 原発事故などで受けた損害の賠償は、原子力損害賠償法と原子力損害賠償補償契約法の二本立てになっている。電力各社はまず原賠法で民間との保険契約を義務付けられ、さらに国と補償契約を結び、保険では支払われないケースに備えている。
 保険による賠償の上限額は原子力施設の種類や規模で異なるが、通常の原発や再処理工場は最も高い1200億円になっている。
 賠償額は1962年に50億円でスタートし、80年に100億円、90年に300億円、2000年に600億円へと引き上げられ、福島第1原発事故の前年の10年に現在の額になった。
 被災者救済の観点からすれば当然、電力各社が自前で備える保険の規模は大きければ大きい方が望ましい。未曽有の被害が現実になったことを考えれば、今回は当然、かなりの引き上げが決められるべきだった。
 賠償額については別の問題もある。1200億円は原発1カ所の額であり、原子炉の数は関係ない。そのため、原子炉7基の東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)も3基の東北電力女川原発(宮城県女川町、石巻市)も、同じ1200億円になっている。
 常識的に考えれば、賠償額は原発ごとでなく、原子炉ごとに設定されるべきではないだろうか。
 原賠法では電力各社の責任は「無限・無過失」であり、その点は今後も変わらない見通し。保険で支払われる額を超えても賠償責任を負うが、それでもできるだけ保険による支払い能力を充実させておかなければならない。
 国は福島第1原発事故の後始末の費用として、賠償と廃炉、除染で合計22兆円が必要と見込んでいる。額はさらに膨らみ、70兆円に達するという民間の試算もある。
 その現実を前にしてもなお、原子力災害の賠償金を据え置くのは理解し難い。被害回復への備えは原発再稼働より優先されるべきなのに、置き去りにされている。


2018年08月27日月曜日


先頭に戻る