社説

民事執行法改正案/子の引き渡し 十分な配慮を

 法相の諮問機関である法制審議会の民事執行部会が民事執行法改正の要綱案をまとめた。10月に法相に答申する予定で、これを受けて法務省は関連法の改正案と合わせて早期の国会提出を目指す。
 現行の民事執行法で規定が欠如していた部分や実現が困難だった課題に踏み込んだ改正内容と言える。実際の運用に当たっては、なお問題も残されてはいるが、おおむね賛同できる改正案だ。
 主な改正点のうち、注目されるのは、離婚に伴う子どもの引き渡しについて、実効性をより高める仕組みだ。
 現状では、調停や審判の命令で一方の配偶者に子どもの引き渡しを命じても、強く拒否するなどして実現しないケースが多かった。最高裁のまとめでは、2017年に引き渡しを求めた107件のうち、実現したのは33%の35件にすぎない。
 運用上、子どもの引き渡しには同居の親がその場にいることを原則としており、親が不在を装う例も多い。改正案では、引き渡しを命じられた側の親がその場にいない場合でも、執行裁判所の執行官が子どもを連れ出し、親権者に引き渡す方法も可能になる。
 ただし、実際の運用に際しては、子どもの心情に十分に配慮する必要がある。一定期間、一緒に暮らした親と引き離される子どもの精神的なストレスは大きいからだ。
 混乱なく引き渡されるかどうかは現場の裁量に任される部分も少なくない。この種の対応に習熟した執行官の養成が必要となろうし、心理的ケアに詳しい専門家が同行するなどして、できるだけ子どもに配慮する体制も同時に整えるべきだろう。
 改正要綱案で注目される点はもう一つある。子どもの養育費や賠償金の支払いに関して、債務者側に不払いが生じた場合の解消策だ。
 養育費などを支払わない場合や支払いが途絶えた場合などは、債権者は裁判所に預金口座の差し押さえを申し立てることができる。ただし、現行法では、債務者が利用している金融機関の支店名まで届け出なければならない。
 身近に金融機関が少なかった時代の規定だ。ネット銀行などが普及した現在、相手の口座の金融機関支店名まで特定するのは、債権者に必要以上に重い負担を課し、事実上、差し押さえができない事態を招いている。
 要綱案では、裁判所が金融機関や公的機関に債務者の預貯金や勤務先を照会し、回答を得ることができる新たな制度を設ける。これによって従来よりは差し押さえがしやすくなる。債権者側の泣き寝入りをなくすためにも有効な手だてだ。
 判決や命令を得てもそれが実現できないのであれば、司法に対する信頼も揺らぐ。その意味では今回の民事執行法の改正要綱案は、評価できる内容と言えるだろう。


2018年09月05日水曜日


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