社説

トリチウム水/丁寧な議論と説明を尽くせ

 慎重な議論と丁寧な説明が必要だと、改めてはっきりしたのではないか。東京電力福島第1原発でたまり続ける放射性物質トリチウムを含む水の処分を巡る問題だ。
 政府の小委員会が先月末、福島県内と東京都の計3会場で国民の意見を聞く公聴会を開催した。計44人の意見表明は、原子力規制委員会が「唯一の方法」とする海洋放出への反対が大多数を占めた。
 福島県漁連会長は「漁業に致命的な打撃を与える」と訴えた。県沿岸ではようやく、ほぼ全ての主要魚種の試験操業が可能になったばかり。海洋放出すれば、風評がぶり返して深刻な被害が出てしまうと懸念するのは当然だ。
 「結論ありきで話が進んでいる」「タンクでの保管も選択肢に含めてほしい」といった指摘や要望もあった。
 トリチウム水に関しては国の検討会が2016年6月、蒸発や地層注入など五つの処分方法のうち、希釈しての海洋放出が最も短期間に低コストで処理できるとの技術的な評価結果をまとめた。
 処分方法の絞り込みを担う小委員会は、風評被害など社会的な影響も含めて検討を進めてきた。委員の一人は公聴会で「(われわれは)放出するとは言っていない」と、結論ありきとの批判を否定したが、海洋放出を前提に議論されてきた印象は拭えない。
 公聴会終了後、小委の委員長は「タンクでの長期保管の可能性も含めて議論する」と述べた。タンク保管に関してはこれまでの小委でも取り上げられており、今後はより詳細な検討が求められる。
 トリチウムの性質に関し、積極的に説明する必要性も浮き彫りになった。公聴会では「トリチウムが出す放射線は弱い」「健康への影響も小さい」といった説明に対し、異を唱える意見も出された。
 自然界に存在し、世界の原発からも放出されている現状をはじめ、トリチウムについて知っている一般市民は少ない。国民的な議論を深めるには、安全性などに関する科学的根拠や研究動向を、広く発信することが欠かせない。
 公聴会そのものの在り方を問う声にも耳を傾けるべきだろう。仮に放出することになれば、消費者らの反応次第で風評被害が拡大する。今回の3会場だけで終わらせず、より多くの意見を聞いて理解を深めるため、新たな機会を設けることを検討してほしい。
 トリチウム水の処分を巡っては、原子力規制委が海洋放出の早期決断を東電に迫ってきた。自民、公明両党も7月末、安倍晋三首相に提出した復興への第7次提言書に「先送りせずに解決策を見いだす」と盛り込んだ。
 確かに現状では保管のためのタンク建設は20年末で限界を迎えるが、時間的猶予がないことを理由にした拙速な判断は許されない。議論や説明を尽くすよう、小委員会には重ねて求めたい。


2018年09月08日土曜日


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