社説

プーチン氏提案/対ロ外交の戦略立て直しを

 22回の首脳会談で築いたはずの信頼は何だったのか。一つの発言で、日本の対ロ外交は打ち砕かれた感がある。
 ロシアのプーチン大統領がウラジオストクでの「東方経済フォーラム」討議で、一切の前提条件抜きに今年末までに日ロ平和条約を締結するよう安倍晋三首相に求めた。
 到底認められない手のひら返しの提案だ。北方四島の帰属問題の解決を前提に置き、国境線の画定後にロシアとの平和条約締結を目指す日本の基本姿勢に相反する。
 それを重々承知の上での発言とすれば、プーチン氏の真意をはかりかねる。
 「条約に基づき全ての係争中の問題を解決しよう。いつか実現すると確信している」と説明したが、都合のいい一方的な解釈にすぎない。領土問題の先送りであるばかりでなく、事実上の封印と受け取られても仕方あるまい。
 政府は正式な提案があれば応じる方向だが、大統領発言の齟齬(そご)に断固として抗議すべきではないか。野党各党からも反発の声が上がっている。
 本当にその場での思いつき発言だったのかも疑問だ。プーチン氏は、色丹島、歯舞群島の返還を明記した1956年の日ソ共同宣言を持ち出した。「双方が署名したが、日本が履行を拒否。今になってこの問題の検討に立ち戻った」と説明した。2島先行返還論を再びちらつかせ、日本側の出方を見るそぶりに映る。
 わずか3カ月余の期限を区切った提案は、あまりにも性急で不自然だ。国家間で何にも増して重要な平和条約の内容を詰めるには時間が短すぎる。ロシア側の腹案を土台に交渉を優位に進め、日本に決断を迫る戦略とも取れる。
 周到に準備された提案ではないにせよ、うっ積した本音が堰(せき)を切って吐露されたことに違いはない。日本政府へのいら立ちや、国内経済が悪化する中、支持率が低下したことも背景にありそうだ。
 この前々日に両首脳は領土交渉につなげるための共同経済活動の推進で合意した。平和条約締結についても「一朝一夕に解決できないことは分かっている」などとし、具体的な発言をしていなかった。
 討議で、挑発するような口調で「(平和条約締結を)今やらないで、いつやるのか」とプーチン氏に迫ったのは安倍氏だ。思いがけず強力な応酬を浴び、返り討ちに遭う格好となったが、すぐに問いただすべきではなかったか。
 プーチン氏の提案の真意は依然不明な点が少なくない。詳細な検討が求められる。安倍氏はきのう官邸で、提案について「条約締結への意欲の表れ。四島の帰属を解決し、平和条約を締結する基本に変わりない」と説明した。
 ここに来て露呈した盟友同士の認識のずれをどう修正するか。相互利益の原点に戻り戦略の再構築が必要だ。領土問題の解決の道が断たれることだけは避けねばなるまい。


2018年09月14日金曜日


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