社説

行政手続条例/慣習で仕事をしていないか

 講師に「皆さんのまちには行政手続条例がありますか」と聞かれて「ある」と答える受講生は、全体のおよそ2割だという。全国の自治体職員が実務を学ぶ自治大学校での講義の一こまである。
 これはやや意地悪な質問で、実は新潟県加茂市を除く全ての自治体が行政手続条例・規則を備えている。本来なら全員「ある」と返事をしなければならない場面だ。
 行政の公正と透明性を確保するため、許認可事務や指導の統一ルールを定めたのが行政手続条例。運用から既に四半世紀近いというのに、当事者である職員の間でも認知度はこれほどまでに低い。
 行政手続条例を知らずに職務を行う職員は「道交法を知らずにハンドルを握るタクシー運転手のようなもの」と上智大の北村喜宣教授(行政法)は指摘している。笑い事で済む話ではなかろう。
 多くの住民は日ごろ、役所というのは法律に従って仕事をする所だと思っている。しかし、条例の立法事実が示唆しているのは「役所仕事の実際は、法令ではなく慣習で事務処理をしているのではないか」という疑念だ。
 例えば住民の申請を事前審査し、不許可になりそうだったので無駄な申請はしないよう助言する。こんな事務はないだろうか。親切心かもしれないが、これは明らかに申請権の侵害に当たる。
 仙台市では今年5月、農地を宅地化する開発行為の手続きで、内部決裁を経ずに許可書を交付するという極端な不正が複数発覚した。
 注目したいのは、東日本大震災からの復興に伴う申請が殺到する中での不正だった点だ。仙台に限らず復興事業に忙殺される被災自治体で、職員の法令順守教育が後回しになっていることを危惧する。
 河北新報社の調べでは、震災発生から7年半が経過し、震災後採用の職員の割合は岩手県の大槌町や山田町で4割前後に達した。経験の浅い若年職員の管理職登用、実務研修の不足といったひずみが顕在化しつつある。
 他方、職場の慣習にもたれ掛かった事務の危うさに気付いた自治体では近年「行政リーガルドック」という取り組みが始まっている。チェックシートに業務の根拠法令を記入し、行政手続条例に反していないかどうかを診断する行政改革の手法だ。
 岩手県では本年度、県立大が滝沢市、軽米町とリーガルドックに着手した。花巻市も先進自治体の千葉県流山市から手法を学んでいる。
 行政手続条例の本旨は、これを順守することで市民の行政に対する信頼を保障する点にある。と同時に、正しい法務能力を身に付けることは、行政訴訟などのトラブルから個々の職員や行政組織を守るための最終手段だ。
 情報公開度などと同様に一度、法令順守度を点検してみたらどうだろうか。


2018年09月24日月曜日


先頭に戻る