社説

水産予算の概算要求/漁村の持続実感できるか

 水産庁は2019年度の概算要求として、18年度当初予算比1.7倍となる3003億円を提出した。満額確保されれば、水産予算は02年度以来、17年ぶりに3000億円を突破する。
 強気な要求の背景には政府が6月に決定した「水産政策の改革」がある。「水産庁の本気度が浜に伝わる予算」(長谷成人水産庁長官)として、増額分の大半は改革実行に向けた施策に投入する。
 水産改革の柱は漁業の成長産業化だ。関連事業に523億円を計上。このうち新規事業となる「沿岸漁業の競争力強化」に308億円を充てた。成長産業化の軸となる養殖業に関しては輸出強化、漁業者と企業の連携推進、大規模化と収益性の高い生産体制への転換を打ち出している。
 概算要求には「浜の構造改革」など刺激的な言葉が躍る。総額の大きさと合わせ、官主導で改革を一気に押し進めたい意欲がにじむ。
 水産改革は漁業を取り巻く状況の激変を踏まえて作成された。世界的に水産物需要が増大する一方、国内の人口と漁業者数は下降し、海洋環境の変化で水産資源が減少。日本周辺海域への外国漁船進出は活発化する。
 加えて、19年度は環太平洋連携協定(TPP)や欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)が発効し、その影響は水産業にも及ぶ。農業に比べて改革が遅れていると言われる漁業の転換は時代の要請とも言える。問題はその進め方だろう。
 水産改革に対する漁業者の不安や不満は根強い。特に漁業者の最大の関心事となっている区画漁業権の優先順位廃止に対する反発は、いまだに収まっていない。
 先行事例となった宮城県の水産業復興特区は5年に1度の沿岸漁業権免許の一斉更新を迎えた今月、適用が見送られた。5年前、生産者でつくる合同会社と県漁協が競合した石巻市桃浦の漁場について、県漁協が申請を見送ったためだ。
 県が期待した企業の参入は1例にとどまり、制度は事実上、形骸化した。「日本の水産業に一石を投じた」(村井嘉浩宮城県知事)という水産特区は、東日本大震災という特異な事情が絡むとはいえ、企業と漁業の共存の難しさを浮き彫りにする形になった。
 現在の漁業権制度は世界的に類のない高度な沿岸利用を支え、漁村の共同体意識を育んできたと言われる。今回の概算要求から、漁村コミュニティーへの配慮はうかがえないことを危惧する。
 水産庁が描く成長産業化は、集落単位で培ってきた漁村と漁業者のなりわい維持にどう結び付くのか。何より、官製の針路に国内漁業を全面的に委ねられるのか。加速度的に進めようとする改革の足元を見詰め直し、浜の持続が実感できる取り組みが求められている。


2018年09月25日火曜日


先頭に戻る