社説

南海トラフ地震/事前避難に綿密な計画必要

 南海トラフで巨大地震が発生する恐れが強まった場合、住民や自治体、企業はどう行動するべきなのか。政府の中央防災会議が、避難などについて新たな方針を報告書にまとめた。
 気象庁は昨年11月、南海トラフ巨大地震に関し、異常現象が起きた際に「臨時情報」を発表する仕組みを導入。報告書では異常な現象3ケースを想定し、それぞれの対応を大まかに示している。
 三つのうち、南海トラフでマグニチュード(M)8級の地震が起き、連動してさらに巨大地震が続発する恐れがある場合、被災していない地域の住民も津波に備えて1週間ほど避難する。政府が一斉避難を呼び掛ける。そんな内容が報告書の柱だ。
 科学的な限界から事前避難は「空振り」も予想されるが、より多くの命を救う可能性は高まる。住民には空振りを許容する姿勢も大切だろう。
 ただ、避難対象が沿岸の広範囲に及ぶだけに、市民生活や経済活動への影響は計り知れない。学校や仕事はどうするのか。病人やお年寄りの避難先をどう確保するのか。食料の備蓄、交通規制の規模など課題は多い。
 社会的な混乱を抑えながら、警戒レベルをどう維持するのか。不確実な情報を基に自治体は難しい対応が迫られる。住民とともに綿密な計画を練ることが不可欠だ。
 事前避難の方針は過去の地震に基づく。南海トラフは、静岡県沖の駿河湾から九州の東方沖まで約700キロ続く海底のくぼ地で、プレート(岩板)の境界。約100〜200年おきに大地震が繰り返し起きている。
 直近の2例はともに南海トラフの東側でまず大地震が発生し、時間差で西側でも大地震が起きた。1854年には東海地震の32時間後、1944年の東南海地震では2年後に南海地震が発生した。
 このため報告書は、想定震源域の東西どちらかで巨大地震が発生したケースを「半割れ」と表現し、もう一方の地域に避難を促す。
 他の二つの異常現象は、震源域の一部でM7級の地震が起きる「一部割れ」、プレート境界が揺れを伴わずに動く「ゆっくりすべり」。どちらのケースも臨時情報は出されるが、政府は地震や津波に備えるよう呼び掛ける程度にとどめ、住民や企業の対応はそれぞれの判断に委ねる。
 政府は来年度にも指針で対策を例示し、自治体や企業に防災計画の策定を促す。政府がまず、分かりやすく説得力のある指針を示す必要がある。臨時情報についての周知徹底も欠かせない。
 南海トラフで今後30年以内にM8〜9の地震が起きる確率は70〜80%だ。いつか必ず起きることを念頭に自治体は対応を急がねばならない。住民も防災・減災の意識を高め、一人一人が日頃から「その日」に備えたい。


2019年01月07日月曜日


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