社説

原発賠償基準/中間指針の見直しの議論を

 被災地の声は果たして理解されているのか。あまりに素っ気ない国の対応に、被災者は大きく落胆したはずだ。
 東京電力福島第1原発事故の賠償指針を定める原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)の会合が先月下旬に開かれた。現行基準の「中間指針」について、見直しへの言及があるかどうか、被災者らは注視していた。
 ところが、見直しを求める福島県などの要望は紹介されたものの、議論されることはなかった。鎌田薫会長(早稲田大総長)が「直ちに見直しが必要とは考えてない」と述べただけで、あっさりと次の議題に移ってしまった。
 本当に「必要なし」と言い切っていいのかどうか。被災者が向き合う現実は厳しい。
 東電への賠償を求めて原子力損害賠償紛争解決センターに申し立てられた和解仲介手続き(ADR)が相次いで打ち切られている。昨年は計252件。このうち40件は住民の申し立てに基づく和解案を、東電が拒否していたために打ち切りになった。
 福島県浪江町のADRには1万5313人が参加。福島市渡利地区は3107人、同県川俣町小綱木地区は566人に上る。大勢の住民がADRで精神的な損害に対する慰謝料増額などを認められながら涙をのむ結果となった。
 問題は、東電が中間指針を盾にしている点だ。慰謝料増額などについて「中間指針と乖離(かいり)している」などと繰り返してきた。
 こうした主張がまかり通る現状でいいのかどうか。福島県などが中間指針の適時適切な見直しを、県弁護士会が早急な見直しを原賠審に求めているのもこのためだ。
 東電による和解案拒否を理由にした住民ADRの打ち切りは2017年まではなかった。昨年になって一気に出たのは紛争解決センターが「このままではらちが明かない」と考え、法廷の場に進むかどうか、住民側に委ねる必要があると判断したためだ。
 だが、集団提訴に踏み切ったのは現段階で浪江町のケースのみ。訴訟が長期にわたることなどから、請求を諦める例が増える恐れがある。
 原発事故被災者の迅速で適正な救済を目的としたADRが、中間指針という壁を前に機能不全とも言える状況に陥っている。その中間指針は原発事故のあった11年8月に策定されて以降、1〜4次の「追補」が加わっただけで本格的に改定されていない。
 中間指針を超える賠償は既に、複数の地裁判決で認められている。原賠審の鎌田会長は「(控訴審が続いており)判決は確定しておらず、改定の議論が熟していない」と言うが、議論そのものを否定する理由はどこにもない。
 原発事故から間もなく8年を迎える。中間指針が被災者救済を妨げる結果になっていないか、最低でも検討することが必要だろう。


2019年02月14日木曜日


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