社説

滞納整理機構提訴/許されない過酷取り立て

 残念ながら、年来の懸念が現実になった。
 銀行に振り込まれた給与を宮城県地方税滞納整理機構に差し押さえられ、精神的苦痛を受けたとして大崎市の60代女性が県と市に損害賠償を求める訴えを起こした。
 訴状によると、女性は2008年6月〜17年2月分の国民健康保険料など139万円を滞納。延滞税を含めて197万円を納めるよう求められていた。親族から借金をして100万円は納め、残額は分割払いを申し出たが、機構はこれを認めなかった。
 機構が差し押さえたのは17年8月分の給与8万7000円。パートで生計を立てていた女性は所持金の全てを失った。もはや差し押さえできる資産がなくなった現在、機構は取り立てを停止している。
 司法の判断は今後を待つとして、訴状を読む限り、担税力がありながら納税しない悪質なケースとは思えない。
 女性には生活保護を受給する選択もあったはずだが「税金滞納者が税金で暮らすのはおかしい」と考えて思いとどまっていた。決して楽ではない暮らしを送りながら滞納の責任にさいなまれる心情は、日本学生支援機構の奨学金返済苦と同じ構図だろう。
 本欄は以前にも機構の危うさを指摘している。取り立て実績にこだわり、滞納者が抱える個々の事情に目を配らない体質を懸念した。
 機構の17年度実績は金額ベースで過去最高の徴税率55.8%を達成している。過酷な取り立てが明らかになろうとしている今、全国トップクラスの数字は胸を張れるようなことだろうか。
 取り立ての実態を精査することなく「徴税Gメン」などともてはやしてきたマスコミの責任も重い。ままならない事情で生活困窮に陥った多数の滞納者にこそ、私たちは目を向けるべきだった。
 機構は09年度、取り立てが困難な事案に共同で対処しようと県と県内市町村で開設した。現在は21市町村が加盟している。しかし機構未加盟の多賀城市は、別次元の手法で徴税事務に臨んでいた。
 多賀城市役所には生活困窮者を支援する民間団体のスタッフが常駐し、多重債務者には関係各課がチームを組んで対処する。「納税の義務を果たせるレベルまで自立させること」を最終目標に、数年がかりで支援するという。
 福祉と徴税を一体と見なす取り組みは、生活困窮者自立支援法の理念にも通じる。
 生活に困窮している滞納者から生活費まで取り立てる機構と、納税市民を辛抱強く育てようとする多賀城市。どちらが行政組織としてまっとうかは「北風と太陽」の寓話(ぐうわ)を持ち出すまでもなかろう。
 公権力の行使に当たり「納税意識の低い滞納者の考えを改めさせるのに、捜索は有効な手段」などと公言してはばからない組織には、言葉にならない恐ろしさを覚える。


2019年02月24日日曜日


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