社説

原発事故とヨウ素剤/事前に配布し被ばく低減を

 重大な原子力災害が起きれば、放射性物質が環境に放出される危険性が伴う。8年前の東京電力福島第1原発事故では実際に、膨大な量の放射性物質が大気に放出され、被ばくや汚染をもたらした。
 放射性物質の中で最も量が多かったのはヨウ素131。甲状腺がんをもたらす可能性のある物質だが、実は放射性でない通常のヨウ素(安定ヨウ素剤)の摂取で「予防」できることも知られている。
 国の原子力規制委員会は現在、原発周辺地域でのヨウ素剤配布について見直しを進めている。優先する年齢層や配布時の医師の関わりなどを議論する見通しだという。
 福島第1原発事故では結局、ヨウ素剤は十分活用されなかっただけに、緊急時に必ず服用できるようしっかりと議論を進めるべきだ。
 ヨウ素131はウランの核分裂で生成される放射性の物質。事故で原子炉や核燃料棒が破壊されれば、外部に放出されてしまう。1986年のチェルノブイリ原発事故でも大量放出され、国連は周辺の子どもの甲状腺がん急増との因果関係を指摘している。
 ヨウ素はもともと甲状腺に蓄積されやすい元素。ただ、一定量のヨウ素が甲状腺に既に存在すれば、その後にさらに取り込んでも蓄積されず、体外に排出される。
 その性質を利用したのがヨウ素剤の服用。被ばくの24時間前までに飲んでおけば、仮にいったん体内にヨウ素131が入っても、その90%程度は蓄積されずに排出されることが期待できるという。つまり内部被ばくを防ぎ、ひいては甲状腺がんの危険性を引き下げることになる。
 ヨウ素剤の服用は以前からよく知れていた被ばく防護策で、福島第1原発事故でも双葉、富岡、大熊、三春の4町が服用させている。
 ただ、本来は福島県の指示によって行われるべきだったが、指示は出されず、いずれも独自判断だった。原発事故を検証した国会事故調は「福島県内の市町村にはヨウ素剤の備蓄はあったが、その住民の多くは服用できなかった」と県の対応を問題視した。
 ヨウ素剤の副作用については「(服用した)住民に重篤な副作用が発生したという報告はない」「そもそも副作用の確率は非常に低い」と説明している。
 福島第1原発事故を振り返れば、服用条件やメリット・デメリットをしっかり説明した上で、了解した個々の住民に事前に配布しておくのが最も効果的だろう。現在の基準では事前配布は原発から5キロ圏内が基本になっているが、距離で区別しても大して意味はない。
 国内に二つの原発があるベルギーは昨年、ほぼ全土でヨウ素剤の配布を決めている。被ばく低減への大きな効果を見込んでいるからだろう。それに比べれば、日本はいまだにむやみに慎重すぎる。


2019年04月08日月曜日


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