社説

WTO 逆転敗訴/安全性を強く訴え続けたい

 東京電力福島第1原発事故による風評被害の払拭(ふっしょく)に精いっぱいの努力をしてきた東日本大震災の被災地にとっては、怒りを禁じ得ない最終判断だ。韓国による水産物輸入禁止措置を巡る紛争で、世界貿易機関(WTO)の上級委員会が禁輸措置を是認する判断をした。
 二審に当たる上級委員会が一審の紛争処理小委員会(パネル)の判断を破棄し、一転して韓国の主張を認めた。今回の上級委の判断が最終であり、想定外の日本側敗訴となった。韓国側の輸入禁止措置は続くことになる。
 ただし、注目したいのはパネルが認めた日本の食品の安全性については、上級委も認めている点だ。分かりにくい判断だが、食品の安全性は引き続き認めながら、韓国の禁輸措置は「過度に貿易制限的ではない」としている。
 そうであるならば、あらゆる機会を捉え、冷静に、科学的に、魚介類や農産物の安全性を各国に訴え続けていくほかはない。可能性は低いが韓国に禁輸解除を求める努力も必要にはなろう。
 日本側勝訴が確実視されていた中で、なぜ、敗訴に至ったのか。WTOの紛争処理システムは加盟国の主張がぶつかり合う場であり、自らの主張をいかに有利に展開するかが勝敗を分ける。一審で勝訴し、上級委での日本の対応がおろそかになった感がある。この点に関しても詳細な事後検証が待たれよう。
 国内では、風評被害は少しずつ改善傾向を示している。消費者庁が3月にまとめた食品の放射性物質に関する意識調査によると、福島県産の食品の購入を「ためらう」と答えた人は12.5%で、1年前の調査に続いて過去最少を更新している。
 食品に対する消費者の不安は薄れつつある。国際基準より厳しい基準を国が設け、風評被害で打撃を受けた生産者側も放射性物質の検査を十分すぎるほど強化してきた努力による。こうした事実を各国に向けて発信し、輸入規制の撤廃につなげたい。
 産地の努力を考えれば、非常に残念だとしか言いようがないのは、震災から8年が過ぎた今も、韓国ばかりではなく、米国、中国、香港、シンガポールなど、23もの国や地域が日本の食品の規制を続けている現状だ。
 国の内外を含めて、風評被害が完全になくならないことには、震災からの復興はあり得ない。日本でことし開かれる20カ国・地域(G20)首脳会合などは絶好の機会だ。あらゆる機会を活用して政府は食品の安全性を丁寧に訴えてもらいたい。
 東北の被災3県では、心強いことに、規制国以外への輸出を模索しているほか、国内での消費拡大を目指した動きが活発化している。今回のWTOの報告は冷静に受け止めた上で、風評に打ち勝つ販売戦略を練りたい。


2019年04月16日火曜日


先頭に戻る