社説

強制不妊救済法/本人への被害通知が必要だ

 旧優生保護法(1948〜96年)下で障害者らに不妊手術が繰り返された問題で、被害者におわびを示し、一時金320万円を支給する救済法が24日、成立した。旧法が母体保護法に改正されて以来、23年間も放置されてきた問題に対し、ようやく救済策が動きだす。
 救済法は与野党による議員立法で成立した。被害者の多くは高齢化しており、国会が早期の成立、施行を図った点は評価されていい。被害回復への第一歩となる。
 とはいえ、その内容は被害者の願いや思いとは懸け離れており、不十分と言わざるを得ない。
 救済法は前文で、被害者の心身の苦痛に対し「われわれは、それぞれの立場において、真摯(しんし)に反省し、心から深くおわびする」とうたう。
 「反省とおわび」は記したが、被害者が求める旧法の違憲性や国の法的責任には踏み込まなかった。反省とおわびの主体も「われわれ」とあいまいだ。
 政府は救済法成立を受けて安倍晋三首相の談話を発表し初めて謝罪の意を示した。しかし「このような事態を二度と繰り返さないよう、共生社会の実現に向け、政府として最大限の努力を尽くす」とする内容にとどまった。
 各地で続く国家賠償請求訴訟への影響を避けるため、国は不妊手術について「当時は適法だった」との姿勢は崩していない。国が施策の非を認め、責任を明確にすることなしに被害者の人権と名誉の回復は図れまい。
 救済制度の周知についても課題が残る。
 旧法下で不妊手術を受けたとされる障害者らは約2万5000人に上る。このうち個人が特定できる記録は約3000人分残っている。救済法では、プライバシー保護を理由に、こうした人たちへの個別通知は盛り込まれなかった。周知は広報活動にとどめ、自己申告が前提だ。
 国は強制不妊手術を受けさせるため「だましてもよい」と都道府県に通知した経緯があり、不妊手術だとの認識がない被害者も少なくない。障害特性などから意思表示が難しい人や、家庭の事情で言い出せない人もいる。
 全国被害弁護団の新里宏二共同代表(仙台弁護士会)は「請求数が極めて少なくなる恐れがある」と危惧する。多くの被害者の救済につながらないとすれば、一体、誰のための救済法なのか。政府や自治体はプライバシーに配慮しながら、被害事実を本人や家族に伝えるよう努力し、請求を支援する必要がある。
 国会が救済法制定へ動く契機となったのは、宮城県の60代女性が昨年1月、仙台地裁に起こした国賠訴訟だ。一連の訴訟で初となる判決は5月28日に言い渡される。旧法の違憲性を認める判決も想定され、内容次第では救済制度の見直しが迫られよう。


2019年04月25日木曜日


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