社説

認知症大綱/「予防」より「共生」に軸足を

 政府は近く、認知症対策の方向性などを盛り込んだ大綱を関係閣僚会議で決定する。認知症の人との「共生」とともに、「予防」の強化を柱としたのが特徴だ。
 先月公表した素案では、予防に関し初の数値目標を導入していたが、取りやめて参考値にとどめる。当初は、70代の認知症の人の割合を6年間で6%減、10年間で約1割減を目指すと掲げていた。
 だが、認知症の関係団体から「認知症の人は努力不足という新たな偏見が生まれる」と反発が相次ぎ、政府は方針転換を余儀なくされた。
 反発を招いたのは当然だろう。予防の科学的根拠は乏しく、数値目標の根拠や実効性は不透明だったからだ。ただ、予防自体は大綱の目玉として維持するという。
 数値目標は取り下げたものの、予防を強調しすぎることで、認知症を過度に悲観したり当事者を忌避したりする風潮が強まってしまわないか、危惧される。
 認知症の国家戦略とも言うべき大綱の影響は大きい。予防強化によって、医学的根拠に基づかないサプリメントや予防法が広まりかねない懸念もある。政府は、そうした負の側面にも目を配り、慎重に対応するべきだろう。
 政府はむしろ、認知症になってからも自分らしく、安心して暮らせる共生社会の実現にこそ、軸足を置くべきだ。医療や介護の人材育成、家族の支援体制など道半ばの対策に力を注いでほしい。
 認知症には脳が萎縮するアルツハイマー型やレビー小体型、脳梗塞などが原因の血管性認知症などのタイプがある。根本的な治療法や予防法は確立されていない。
 一般的にはリスク軽減のため、禁煙や節酒、運動などが推奨されており、素案では予防として運動教室や教育講座の普及を想定している。
 政府が初めて予防を打ち出したのは、官邸主導で昨年12月に開かれた関係閣僚会議の初会合だった。この頃から、専門家や当事者から「認知症にならない社会をつくる、という誤ったメッセージになる」という懸念が出ていた。
 政府がそうした指摘を丁寧に受け止めなかったことが、拙速な数値目標導入につながったと言える。大綱を決定する前に、政府は当事者や支援者から意見を聞く必要があるのではないか。
 2015年に策定された対策「新オレンジプラン」では、20年度末までに当事者や家族らを支える「認知症サポーター」養成や、交流の場「認知症カフェ」の全市町村設置を掲げている。こうした環境整備こそ急がなければならない。
 加齢による認知症は誰にでも起こり得る。認知症の人が暮らしやすいまちをどうつくるのか。医療や介護だけでは限界がある。当事者の生活の障壁を踏まえ、社会全体でその壁を一つ一つ取り除く取り組みを重ねたい。


2019年06月07日金曜日


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