社説

老後の資金不足/年金の全体像を議論しよう

 「年金だけで老後資金を賄えず、95歳までに2000万円の蓄えが必要」。金融庁の審議会がまとめた報告書について、所管する麻生太郎金融担当相が受け取りを拒否し、宙に浮く異例の事態になっている。
 年金制度への不安が高まり、参院選に影響するのを避けようとしたとされる。報告書の書きぶりは、金額を強調するなど粗いところも見受けられる。しかし、少子高齢化で年金水準の引き下げが予想される中、このまま制度を維持できると考える人はそう多くないだろう。
 報告書を一つの材料にして、給付と負担のバランスや貯蓄の在り方など年金システムの全体像を議論するのが筋である。本来なら、政府が参院選前に新しい年金政策の方向を示すことがあってもいい。
 政局の火種になるからと頬かむりせず、現状をつまびらかにし、広く国民に呼び掛ける建設的な論議を望みたい。
 報告書の試算は、総務省の家計調査(2017年)を基に、夫65歳、妻60歳以上の平均的な無職夫婦の世帯を想定している。
 1カ月の家計について、収入が年金など約20万9000円に対し、支出は食料、医療費など約26万3000円。毎月5万円の「赤字」としている。夫が95歳になるまでの30年間で約2000万円不足とはじき、預貯金などでそれだけの蓄えが要ると指摘した。
 各家庭の生計やライフスタイルはさまざまであり、試算は一つの事例なのだが「赤字」の表現や金額がクローズアップされ、大きな騒ぎになった。
 報告書の後半をみると「公助」の限界をカバーする手だてとして「自助」、ここでは資産の運用を奨励している。確定拠出年金の「iDeCo(イデコ)」とか「つみたてNISA」を例示する。
 金融庁が国民に財テクを勧めるような内容に対し、批判も聞かれる。安全志向の強い一般家庭では、いわゆるたんす預金に向かう傾向にある。投資に回すと言っても、どれだけの人々が商品を理解し、反応するだろうか。唐突の感がある。
 その前に、限界の近づく公助をどのように維持し、見直すのか、抜本改革を含めて根幹を議論するのが先だろう。
 今年は5年に1度の「財政検証」の公表時期に当たる。現在の年金制度は、保険料収入と積立金、国庫負担で賄えるように水準を引き下げる「マクロ経済スライド」の方式を取る。引き下げを続ける期間や現役当時の収入に比べて何割かなど、見通しを明らかにするのが財政検証である。
 今月初めの公表とみられていたが、いまだに公表時期さえ示していない。選挙の争点化を避けているとしたら、これもまた自己都合のそしりを免れまい。先送りせずに正確な情報を提示し、議論のテーブルを整えるのが肝要だ。


2019年06月13日木曜日


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