社説

内陸地震11年/被災の教訓を思い返す日に

 岩手県内陸南部を震源に栗原、奥州両市で震度6強を観測し、23人が犠牲になった岩手・宮城内陸地震は14日、発生から11年を迎えた。
 新緑に彩られた山並みはあの日、激震で痛々しい姿に一変した。栗原市の荒砥沢ダム北側の斜面では約1.3キロにわたって国内最大級の地滑りが発生。山肌がむき出しになり、道路は引き裂かれた。旅館「駒の湯温泉」は土砂に押しつぶされ、一関市の祭畤大橋は崩落した。
 震源付近は当時、活断層が確認されておらず、発生場所も規模も、よもやの地震だった。活断層のデータがないと安全な場所と受け止めがちだが、そうではなかった。
 現在、自宅や学校、職場の近くに活断層がなくても、まだ解明できていないだけかもしれない。活断層がある場合に揺れへの備えをするのはもちろんだが、なかったとしてもその重要性は変わらない。
 災害が発生すると犠牲や被害の現場は印象に残るが、間一髪で実害を免れた場合は記憶にとどまりにくいものだ。海から離れている岩手・宮城内陸地震の被災地で津波が起きたことを覚えている人は、どれぐらいいるだろうか。
 津波は地滑りによる土砂が荒砥沢ダムに流入し、発生した。ダムの水位を下げていたことなどから津波は堤防を超えず、大事には至らなかった。ただ、海外では地滑りで発生した津波がダムからあふれ、多くの犠牲者が出た事例がある。ダムや湖の付近で揺れを感じた際は用心を。
 山間部の集落の孤立も語り継ぐべき課題だ。集落へのアクセス道路が各地で寸断され、身動きのとれなくなった耕英地区の住民たちはヘリコプターで救出された。
 内閣府の2013年度の調査で、孤立可能性のある東北の中山間地の集落数は青森168、岩手294、宮城133、秋田138、山形441、福島230。地震のほか、頻発する豪雨災害も踏まえると、集落の孤立は最も起こり得るリスクの一つだろう。
 対策として衛星携帯電話をはじめ複数の通信手段、十分な食料と水、林道などの迂回(うかい)路の確保が挙げられる。悪天候が重なるとヘリコプターでけが人を迅速に搬送できない事態も考えられる。家具の転倒防止など負傷を未然に防ぐ措置に加え、集落で応急処置を学ぶことも備えになる。
 政府の地震調査委員会委員長を務めた故阿部勝征東京大名誉教授は「直前の災害に引っ張られてはだめだ」が口癖だったという。直近の教訓が大切なのは言うまでもないが、そこばかりに目が向くあまり、過去の教訓がおろそかになってはいけない。
 山里に暮らす住民に加え、夏山シーズンが本格化するとたくさんの登山客が山に入る。山間部で被災した場合を想定し、追悼の日にいま一度、岩手・宮城内陸地震の教訓を思い返してほしい。


2019年06月14日金曜日


先頭に戻る