社説

自主避難者家賃/個別事情に配慮した支援を

 契約期限を過ぎても国家公務員宿舎から退居できない東京電力福島第1原発事故の自主避難者に対し、福島県は家賃の2倍額の「損害金」を請求した。東日本大震災と原発事故から8年4カ月。この間に収入や家族関係といった自主避難者の生活事情はいや応なく複雑化し、「懲罰的な2倍家賃」(支援組織)を一律に求める県の姿勢はひどい仕打ちに映る。
 対象となったのは、3月の退居期限後も東京と埼玉、神奈川、茨城、京都5都府県の国家公務員宿舎に残った63世帯。県は今月9日に送付した請求書で26日までに、4月分として1世帯当たり2〜15万円の納付を求めた。
 対象世帯の多くは、家賃が低廉な他の公営住宅などへの転居を希望する。しかし競争率が高く、引っ越すことができない。損害金の総額は約300万円になるという。
 震災直後、福島からは最も多い時で6万2000人以上が県外に避難先を求めた。こうした県外避難者の住まいを確保しようと、受け入れ側の各自治体は立地する国家公務員宿舎を国から借り上げる形で用意した。
 その一つ、東京都江東区の東雲(しののめ)住宅は東京湾岸の高層マンション密集地にある。同住宅も36階の超高層で、一時は福島などから1300人が身を寄せた。
 2011年夏に同住宅へ入居した南相馬市鹿島区出身の50代女性は、河北新報社の取材に「移りたくても、行き場がない」と苦しい胸の内を明かした。都営住宅の抽選に過去4回応募したが、当たらなかった。娘2人は東京の生活にすっかりなじみ、「古里に戻ろうとすると、家族がばらばらになる」と話した。
 県は自主避難者に対する住宅無償提供の措置を17年3月末で打ち切り、国家公務員宿舎の入居世帯に関しては家賃の支払いを条件に2年間の延長を認めた。その際の賃貸契約書に入居世帯は今年4月以降、退居まで損害金を支払うと明記したことが、県が2倍家賃を請求する根拠となっている。
 退居の条件が整うまで入居継続を保証するよう求め、支援組織は12日に請求撤回の申し入れ書を県に提出。しかし内堀雅雄知事は、16日の定例記者会見で「契約に基づき4月分の請求を行った」と型通りの見解を示すにとどめた。
 あの日から8年以上たっているのにもかかわらず、今なお3万1600人が県外避難しているのが原発被災地・福島の現実である。少しずつだが復興が進む被災地に帰還を促す施策が、逆に避難者を追い詰める結果となってはならない。
 会見で、内堀知事は「今後も未退居世帯には丁寧な対応をとる」とも語った。県は避難者一人一人の個別事情を十分に吸い上げ、新たな住まいが見つかるまで伴走型の支援を継続すべきだ。


2019年07月25日木曜日


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