社説

ハンセン病家族補償/幅広い救済へ道開くべきだ

 国の敗訴が確定したハンセン病家族訴訟を巡り、安倍晋三首相は原告団の代表らに面会して直接謝罪した。「深く深くおわび申し上げます」。頭を下げたその姿は、謝罪を長年求めてきた元患者家族にとって、大きな区切りとなったに違いない。
 ただ、謝罪は補償の制度づくりや偏見差別の解消に向けた一歩にすぎない。元患者家族の「人生被害」をいかに回復するのか。安倍首相の言葉の真価が問われるのは、むしろこれからだろう。
 ハンセン病患者への国の誤った隔離政策で、家族も偏見と差別にさらされてきた。安倍首相は、訴訟の原告以外の家族も含め、補償の対象とする法整備を明言した。元患者家族一人一人の被害が補償されるよう、首相自らが指導力を発揮し、幅広い救済へ道筋をつけてほしい。
 救済措置の制度設計では、補償の対象範囲や金額が焦点となる。6月の熊本地裁判決では、家族の立場により被害認定の判断が分かれ、賠償額などに差が出た。
 地裁判決は、国が元患者本人への救済制度を設けた2001年までの差別被害を損害賠償の対象とし、02年以降に被害を認識した原告20人の請求は棄却した。02年以降は隔離政策による家族への偏見差別の影響が小さいと判断したからだ。
 また地裁判決は、患者のおいやめい、孫も本人が家族だと認識していれば、差別被害を受ける立場にあったと認定した。一方で、家族の関係づくりが妨げられた被害は、患者と原告が親子か配偶者、兄弟姉妹の関係しか認めず、慰謝料は30万〜130万円と差がついた。
 原告団は救済制度に関し、家族を区別せず一律の補償を求めている。国が近く設けるとした原告側との協議の場では、当事者の意向を十分に踏まえ、救済措置の議論を深めてほしい。
 元患者の家族は、その立場や身内の病をひた隠しにして生きてこざるを得なかった。地裁判決が認めるように差別被害に加え、家族関係の形成も妨げられた。偏見差別で就学や就職ができず、生活が困窮する家庭も少なくない。
 国は深刻な被害への補償にとどまらず、家族関係の修復や生活に対するサポートなど多角的な支援策を検討する必要があるのではないか。
 偏見や差別を恐れ、名乗り出ることのできない被害者もいる。国は救済制度を策定するに当たり、被害家族の把握に努めると同時に、被害者が名乗り出やすい環境を整える責務がある。
 安倍首相は「差別・偏見の根絶へ政府一丸となって全力を尽くす」と約束した。過酷な境遇を強いられた家族にとって「人生被害」は終わっていない。偏見差別の解消は政府に限らず、社会全体が問われている課題だと一人一人が肝に銘じたい。


2019年07月26日金曜日


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