社説

内部留保 過去最高/なぜ賃上げに回せないのか

 経済の循環がここで目詰まりを起こしているのではないか。財務省が2日発表した2018年度の法人企業統計によると、企業が蓄えた内部留保が過去最高の463兆円を超えた。過去最高額の更新はこれで7年連続となる。
 国内総生産(GDP)の1年分に迫るほど巨額の内部留保だ。これだけの額が積み上がった一方で人件費に回った割合を示す労働分配率は低いままだ。依然として賃上げに回せないのはなぜなのか。
 経済団体からは説得力ある理由が示されない。こうした状況が続くようでは、法人税の増税や内部留保税の新設など企業税制の在り方を改めて検討すべきではないか。
 政府税制調査会が月内に首相に答申する税制の在り方に関する提言では、社会保障制度と財政を維持するため何らかの増税策が必要と指摘するという。安定財源として消費税のさらなる増税の必要性を示唆するとみられる。
 しかし、10%を超えて消費税をさらに増税するのは、経済への影響が大きすぎる。GDPの6割近くを占める個人消費に深刻な打撃を与えるのは明らかだ。消費税を狙い撃ちにするのではなく、現在の経済状況を勘案しながら、あるべき税制を議論しなければならない。
 内部留保がこれだけ増えた大きな背景は、大規模な金融緩和によって為替が円安基調に転じ、輸出企業を中心に好調な業績が続いたためだ。米中貿易戦争の影響などで新たな設備投資を手控え、むしろ内部留保に回す企業が増え始めた状況もある。
 デフレ不況に加えて、08年のリーマン・ショックによる痛手から、多くの企業が防衛意識を強く持ってきたとされる。貿易摩擦などで企業経営は厳しさを増し、将来を見通しにくい環境とはいえ、それでもこの内部留保の額は尋常ではない。
 将来の危機に備えて手元資金を手厚くしておくという合理的な意味合いを既に超えているように見える。
 企業に対する新たな税制を視野に入れていい時期ではないか。日本の場合、法人税の名目上の税率はともかく、特に大企業が現実に負担している税額は、各種の優遇策によって諸外国と比較してもかなり低いといわれる。
 内部留保の増加に対し、麻生太郎副総理兼財務相は経済界の姿勢を批判してきた。法人税が引き下げられても賃上げや投資に慎重な企業に率直に不満を述べている。東京五輪後に予想される景気失速への不安など、企業側にも理由はあろうが、麻生氏の指摘は的を射ている。
 内部留保に対する新たな課税、企業規模や資本金によって税率を高くしていく法人税の累進税化、これまで減税を続けてきた法人税そのものの転換。巨額の内部留保を巡っては、検討すべき論点と選択肢は数多くある。


2019年09月07日土曜日


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