社説

3.11伝承推進機構/持続的な教訓発信の礎に

 東日本大震災の経験や記憶の伝承に取り組む一般財団法人「3.11伝承ロード推進機構」が動き始めた。
 中心メンバーは東北経済連合会、一般社団法人東北地域づくり協会、青森、岩手、宮城、福島の被災4県や仙台市、東北大など。
 被災地では既に多くの団体、個人が伝承活動をしている。異なる地域、多様な団体、人材を組み合わせ、これらの活動を発展、持続させるアイデアと推進力が問われる。
 機構は震災遺構や慰霊碑など192件の伝承施設で構成する「3.11伝承ロード」のマップを作製。今後、伝承施設を活用した視察ツアーの立案や、防災教育プログラムの作成などに取り組む。
 被災地には「地震があったら津波の用心」と過去の教訓を刻みながら、住民に忘れられた石碑もあった。伝承はモノだけでは不十分。人が語ることで聞き手は震災をわが身に重ね、追体験できる。語り部との連携と支援が、機構の要の取り組みの一つになる。
 伝承活動をする上で気を付けたいのは、被災イメージの固定化だ。例えば津波襲来前に引き潮が起きるケースもあれば、起きないケースもある。聞き手が異なる事例を知らないと、せっかくの伝承があだになりかねない。
 震災は被災エリアが広く、地域ごとに被害や必要な備えが違った。研究者の知見を基に研修プログラムを設け、語り部が学ぶ仕組みを作れば、伝承活動はさらに充実する。体験談やノウハウの蓄積は将来、震災を知らない世代の語り部の育成にも役立つ。
 昨今の視察の動向は、被災地の発信力や交通アクセスの影響から、訪問先に偏りが見られる。成功例を埋没気味な地域に移植したり、来訪者が多い地域から少ない地域へと誘導するツアーを企画するなど、被災地間の格差是正も大事な役目になる。
 国外への情報発信も急務だろう。今年5月にスイスで開かれた防災関連の国際会議の参加者によると、話題に上がった主な脅威は気候変動、貧困、紛争などで、東日本大震災の影は薄かったという。
 自治体や団体が個々に教訓を発信しても、訴える力は限られる。機構は海外からの視察ツアー誘致を視野に入れ、各被災地で進められている事前防災や被災者支援の取り組みを整理しつつ、世界のニーズをくみ、課題の解決策を国外に提案すべきだ。
 機構の財源は、会費や寄付金。商工業、観光、農業、漁業など幅広い企業、団体から活動資金を募る一方、被災地と被災者に利益を還元してほしい。こういった経済の好循環が、伝承活動の活力と継続につながるからだ。
 機構に求められるのは10年後、20年後も、国内外の人々が被災地を訪れ、被災者と交流する礎を築くこと。それは教訓の伝承だけでなく、風化にあらがう取り組みになる。


2019年10月21日月曜日


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